「ばかばかしさ」を追求して 怒濤の日々(井上芳雄)第81回

日経エンタテインメント!

会計士のレオは、舞台のプロデューサーになるのが夢だったので、マックスの企みが違法と知りつつも、夢をかなえるために詐欺に加担します。吉沢君のレオは、もともとプロデューサーの素質があって、刺激的な世界で自分を表現したいというエキセントリックな願いをずっと押し殺して生きてきたのが、マックスに出会って爆発してしまったというふうに見えます。一方、大野君のレオは、マックスの言葉に心を動かされ、純粋な気持ちであこがれてプロデューサーの道に入ってみたら、すごい世界でびっくりしてしまい、そこで自分自身が変わっていくように見えます。どっちのレオも面白くて、それぞれの個性が出ています。

技術があるからキャラクターが生きる

ミュージカル『プロデューサーズ』でブロードウェイのプロデューサー、マックスを演じる井上芳雄(写真提供:東宝演劇部)

マックスが考えた史上最低のミュージカル計画は、ヒトラーを愛するドイツ人のフランツが書いた『ヒトラーの春』という脚本を使って、女優志望のスウェーデン人で英語が話せないウーラを主演女優に据え、ロジャー・デ・ブリとその助手カルメンのゲイ・カップルに演出を任せるというもの。資金はホールドミー・タッチミーをはじめとする裕福な老婦人から色仕掛けで巻き上げます。それぞれのキャストが、見事に役にはまっています。

ウーラ役の木下晴香さんは、コメディは初めてだそうです。チャレンジだったと思いますが、ネタやギャグを自分で考えてきてくれたり、ボケたりしてくれるので、僕もツッコミがいがあります。歌もダンスもスタイルも、役に必要な要素を持っていて、お芝居も自分で考えてきて、それが全部はまっているのは素晴らしいこと。ブロードウェイ版のウーラはセクシーな大型美女という感じですけど、晴香さんは清楚(せいそ)で清潔感があって、下ネタを言っても嫌な感じが全然しないので、そこも今回の『プロデューサーズ』に合っていると思います。まだ若くして多くのものを持っているので、ポテンシャルがすごく高い女優さんです。

ゲイの演出家ロジャー役の吉野圭吾さんとは、いろいろな作品でご一緒しているのですが、僕が見てきた圭吾さんの役の中でも一番はまっている感じがします。圭吾さんは、役を演じているときには、ずっとその役の気持ちでいる没頭型の俳優さんですが、そういう点でも今回ははまったのではないでしょうか。身も心も稽古場からロジャーになり切っていたし、今となっては元の圭吾さんがどんなだったか思い出せないくらい。歌も踊りも、ちゃんとした技術があるからこそキャラクターが生きると思うので、ミュージカル俳優の素晴らしいところを見せてくれているように思います。

ロジャーの助手カルメン役の木村達成君は、二枚目の役が多かったと思いますが、ゲイの役もコメディーも初めてだそう。女装も美しいので、もともと役の要素は持っていたと思います。稽古場では、「ぶっ飛んだ役なので、役として立つのがめっちゃ怖いです」とか「自分はもっと面白い人間だと思っていたのに、全然面白いことができない」と言ってましたが、それを素直に言えるのも逆にすごいこと。稽古中に自分でアイデアを出したり、圭吾さんと一緒に考えたりして、どんどん芝居が変わっていって、それが今、舞台で花開いています。彼を見ていて、若い役者が役をつかんでいく過程はすごくまぶしいし、かけがえのないものだなと感じました。

お金持ちの老婦人ホールドミー・タッチミー役の春風ひとみさんは、昔から存じ上げているのですが、本当に実力のある素晴らしい女優さんです。役も自分で作ってこられていて、稽古場の第一声からできあがってました。とにかく振り切り方がすごい。限界がないというか、こういうことはできないということがありません。2人がからむ場面の稽古でも、「ここで僕が押し倒すので」と言うと「じゃあ、私はもう下着が見えるように脚を開げるから」とか(笑)。2人でいろいろやりながら、動きを決めていったのですが、なんのてらいもなく演技に徹するところは、いつもながら素晴らしいと思いました。

ヒトラーを愛する脚本家フランツ役の佐藤二朗さんは、誰が見ても役にぴったりですね。歌もうまいし、福田さんのコメディという色を一番出してくださっています。僕はちゃんとご一緒するのは初めてです。二朗さんがすごいところは、笑いを生み出すのに細かいディテールを作って、稽古中にいろいろ試すこと。それで固まってきたら、「ちょっとここのテンポを変えてみるよ」とか「この単語はなしにしてみるね」とか、さらに細かくアレンジしていく。だから自由にやっているように見えて、実は考え抜かれています。それだけ芝居と笑いに対してまじめだし、笑いって奥が深いんだなと。勉強になります。

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