福田雄一さん流 笑いになれば何でもOK(井上芳雄)第23回

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。前回紹介したミュージカルコント番組『グリーン&ブラックス』(WOWOW)をやっていて思うのは、笑いはやればやるほど奥が深くて、いろんなやり方があるということ。その笑いをとことん突き詰めているのが福田雄一さんです。俳優からすると、福田さんに任せておけば絶対に面白くしてくれるという信頼感があります。

福田雄一×井上芳雄『グリーン&ブラックス』(毎月第4土曜深夜0時/WOWOWプライム) 福田雄一さんとのツーショット。

福田さんは、とにかくエネルギーの塊みたいな人。映画もドラマも舞台もどんどんやって多作なうえに、全部自分でマネジメントしています。その力がどこから湧いてくるのかというと、やっぱり笑いが大好きで、楽しんでやっているからでしょう。

『グリーン&ブラックス』では脚本・監督・トークコーナー司会の3役をやられています。収録の日、福田さんと僕はずっとしゃべっているのですが、「こういうのもできるね」「あの人とはこんなことができるね」「いくらでもコントが書けるね」といつも笑いの話。どうすれば面白くなるか――そればかりをずっと考えている方です。

それと同時にすごく繊細で、コントを撮るときは「面白くなるかどうか心配で、実はすごく緊張する」と言っていました。舞台の初日もそうで、お客さんが笑ってくれるかどうか気になって胃が痛くなり、薬を飲みまくるそうです。笑いに対して繊細で、いい意味で慣れてないし、慎重さもある。そういう一面も持っている方です。

舞台は『ナイスガイ in ニューヨーク』という作品で、一度ご一緒させていただきました。原作はコメディーが得意なブロードウェイの劇作家ニール・サイモンの戯曲で、福田さんが上演台本と演出を手がけました。

福田さんの稽古は、細かいことはあまり言いません。台本もごく普通の翻訳調で、笑いがすごく足されているわけではありません。舞台上での動きや位置を一通り説明してくれた後は、ダメ出しもほとんどしません。ただ、面白いことがあったら「ハハハ」って笑っているだけです。それで夕方には稽古が終わって、みんなで食事に行きます。そんなに早く稽古が終わるカンパニーは珍しいと思います。福田さんは飲めないのですが、みんなを誘ってくれます。稽古場に焼肉屋さんを呼んでくれたこともありました。

そんな稽古を毎日繰り返すのですが、同じことをしていたら、福田さんは笑わなくなってきます。だから「福田さんを笑わす稽古」というのでしょうか。俳優は自分でどんどん笑いの要素を足していく。それで福田さんが笑ったり、笑わなかったり。俳優は「もう出ないです」というところまで、笑いを延々と足していく作業を繰り返します。

そして稽古が最後の1週間くらいになったときに、福田さんが急に「じゃあ、今日からちょっと固めていきます」と言って、「井上君、あそこのシーンはあのときやったあのアドリブを使いましょう。ただ、ここはいらないです」と取捨選択をして、演技を決めていき完成させるのです。