「教える」ことで自分再発見 凡人こその努力が糧に
仕事と遊びの境界線をなくす「公私混同力」のススメ(最終回)
「キャリア迷路(モヤキャリ)」から抜け出すためのコミュニティーを主宰する池田千恵氏によると、先が見えない時代に効果的なキャリアの棚卸しは「人に教えること」だといいます。今回はその理由と、教えた経験がない人はどこから始めればよいかについて池田氏が解説します。
先が見えない時代こそ「どう生きたいか」を知る
2020年も残り1カ月ほどとなりました。今年は新型コロナウイルスの感染拡大を機に、激動の日々を送られた方も多いのではないでしょうか。
外出自粛の流れから、リモートワークが広がり、ホワイトカラー業務の多くがそれでも十分機能することが分かりました。ワークスタイルが大きく変化し、次のような不安を感じている方もいるでしょう。
・3年後、今の会社がそもそも存在するか、自分が一体どんな仕事をしているか分からない
・急に会社がなくなったとき、個人としての自分の強みは何か?と言われても言葉に詰まってしまう
・今まで会社のために頑張ってきただけの自分に一体何ができるのだろうか?
・自分の強みは何なのだろうか? 専門性を磨いてこなかった私でもできることはあるのだろうか?
いままで業績順調だった会社があっという間に業績不振に陥るようなケースも出てきました。世の中の常識も数カ月で変わることを実感した今「自分はどう生きたいか」「どんな人生が幸せか」をしっかり考えようと思うのは当然のことです。
とはいえ、いきなり「自分はどう生きたいか」「どんな人生が幸せか」を考えよう、と思っても、思考が止まってしまいますよね。考えれば考えるほど、自分には何もない、でも自分にできることを探さなければ……と焦ってしまう気持ち、よく分かります。
焦りはあっても何をどうしたらよいか分からない人には、今までのスキルや経験の棚卸しをおすすめします。ここでは、会社員をしながら「教える」経験を積むことでスキルや経験の棚卸しをする方法について紹介します。
凡人だからこそ教えるのが向いている
実は、学ぶのに一番手っ取り早い方法は教えることです。
いつか役に立つかもしれないと思って漠然と学ぶ場合と、「この学びを誰かに伝えよう」と思って学ぶ場合では結果に雲泥の差がでます。教えようと思ってまとめることで、今までとは違う頭の使い方をすることができますし、「自分は何が教えられるのか」という視点で生活するようになるので、今まで無駄だと思って軽視していた仕事まで学びの対象となります。
経験もないのに、教える経験を積み、発信するなんてとんでもない! まずは知識を体系化してからじゃないと……と思う方も多いと思いますが、実は逆です。まず不安でも、未熟でもいいので、教えることにチャレンジしていきましょう。教えるうちに反省点がたくさんでてきますので、少しずつ解決しながら成長していきましょう。中途半端なままでも、不安なままでも、まずは教え始めることが大切です。
「でも、自分には本当に何もない。凡人の私に教えられるものなんてない」という方も心配ありません。凡人だからこそ、「知らない→知ることができた」というステップを踏んで体得することができるからです。凡人が、「できない、自信がない、でもできるようになりたい」と必死に勉強して、できるようになったとき、できない人ができるようになるプロセスが腹の底から理解できるのです。どこで引っかかるのか、つまずくのかも分かりますし、そのプロセスこそ、教えるための糧になります。
その上、凡人ができるようになると、「あの人にもできるのだから、自分にもできるかもしれない」という希望を周囲に与えることができます。自分が経てきた歴史がそのまま、周りの人たちの勇気になり、励みになったらうれしいと思いませんか? 凡人だという認識をもち続け、日々努力を重ね、自己嫌悪や憂鬱な気持ちと闘いながら理想の姿を目指してスキルアップを続けているプロセスが重要なのです。
今は自分のスキルを教えるためのプラットフォームも充実しています。就業規則で問題がなければ、そのようなプラットフォームに登録して自身が勉強してきたことを教える経験を積んでいきましょう。いきなり講師デビューが怖い場合は、所属するコミュニティー内で教えてみたり、友人に生徒役になってもらって講師の練習をしたりするのも手です。筆者が主宰する朝活コミュニティー「朝キャリ」では「先生ごっこの会」と称してオンラインで講師の練習をする会を定期的に開催しています。
特別なメソッドを編みだす必要はない
ただ、そうはいっても、やはりいきなり「教える」のはハードルが高いという方も多いでしょう。その理由は、何か世の中にまだない、自分にしかないオリジナルのアイデアを、ゼロから考え出さないと教えてはいけないと思っているからです。
結論から言うと、ゼロから作った自分だけのメソッドは、この世の中に存在しません。自分のアイデアやスキルなんて、誰かがもう考えているものです。しかし、今まで数十年生きてきたなかでインプットしてきたものを掛け合わせ、あなたの「あり方」「信念」「経験」がブレンドされて、しみだしてくるものは、あなただけのオリジナルとなります。例えが適切かどうかは分かりませんが、あなただけの「秘伝の出汁(ダシ)」のようなものになるのです。
過去の経験、インプットに加えて、あり方が濃縮されたダシは、あなたにしか出せないものなのです。つまり、単なるノウハウを教えるだけでなく、あなたの「あり方」「信念」「経験」を、ちゃんと棚卸しして明確化させて伝えることは、とても重要です。つまり、ただのノウハウだけでなく、自分がなぜその知識を人に伝えたいか、そのことによってどんな未来を夢見ているかという「思い」があるかどうかが最も大切です。
仕事術的なノウハウは今後、人工知能(AI)でテンプレート化していくかもしれません。ノウハウだけを効率的に摂取するだけなら機械でいい、そんな世の中になったとき、「それでもあなたから話を聞きたい」となるかどうかは、あなたのダシが出せるかにかかっています。
では、自分のダシをどう見つけていけばいいでしょうか。ここではエンターテインメント(エンタメ)を楽しみながらできる方法について紹介しましょう。
映画を見ながら自分の価値観を明確化する方法
ステップは3つです。特にステップ3が重要です。
「自分の人生で一番感動した映画」を2~3つあげる(映画を見ない人なら小説、マンガ、ドラマ、音楽などのエンタメでもOK)。
<ステップ2>
まとまった時間をつくって、もう一度その映画を見てどっぷり浸る。
<ステップ3>
浸った自分を冷静に振り返り、どこに心を揺さぶられ、どこに怒りを感じ、どこに感動したのかをメモし、自分の感情の動きを細かく観察し、言語化する。
<ステップ4>
怒り、感動、喜びの価値観と、過去あなたが取得してきたスキルや、今学び続けていることが、どうリンクしているのかを考える。
このステップを経ると、今まで一貫性がなかったかのように見えた、あなたのキャリアやスキルの取得プロセスが、一つの「思い」を軸に実はつながっていることが見えてきます。それが、あなたならではのダシです。
たとえば私が映画やドラマを見るときは、「あいつはダメだ」「終わってる」と決めつけられて理不尽な思いをしていた人やずっと芽が出ずつらい思いをしていた人が、諦めずに理想の道をつきすすみ成功を得るようなストーリーにいつも涙します。
私が共感する「思い」は、「外からの決めつけ」「自分への決めつけ」によって挑戦をあきらめることへの反発、怒り、もどかしさです。だからこそ、チャレンジをしたいと思っているのに一歩勇気がでない人や、誤解されていても諦めずに望む未来を手に入れたいと奮闘している人の力になりたいと思い、本を書いたり研修をしたりコンサルティングをしたりしています。仕事内容は様々ですが(朝活、プレゼン、資料作成、時間管理、目標達成、女性活躍推進)、その中で伝えたいメッセージは一貫しているわけです。朝活、プレゼン、資料作成など、一つひとつはありふれたノウハウかもしれませんが、「決めつけ(ジャッジ)からの解放」という私にとってのダシが、ノウハウの上にふりかかっているわけです。
あなたのダシがでると、「あなたの話を聞きたい」「あなたがすすめることやものを知りたい」というオファーをもらえるようになってきます。あなたが今まで頑張ってきた経験は宝です。どんな未来を夢見ているか、どんなことに喜びを感じているかを改めて考え、ご自身が積み上げてきたスキルにふりかけていきましょう。あなただけが教えられることは、そこにあります。あなたの一歩を心より応援しています!
まとめ
●凡人こそ、凡人が努力してできるようになるプロセスを教えることができる
●凡人だという認識をもち続け、日々努力を重ね、自己嫌悪や憂鬱な気持ちと闘いながら理想の姿を目指してスキルアップを続けている人こそが最強
●今からは、教えるプラットフォームを活用したり、コミュニティー内で教える経験を積んだりしていこう
●オリジナルメソッドを作ろうと思わなくていい。あなたのダシを探そう
●自分だけのダシは、好きな映画・音楽・本などのエンタメから気づくことができる
朝6時 代表取締役。朝イチ業務改善コンサルタント。慶応義塾大学卒業。外食企業、外資系企業を経て現職。企業の朝イチ仕事改善、生産性向上の仕組みを構築しているほか、個人に向けては朝活でキャリア迷子から抜け出すためのコミュニティー「朝キャリ」(https://ikedachie.com/course/salon/)を主宰。10年連続プロデュースの「朝活手帳」など著書多数。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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