男は狩り、女は採集と限らない 古代に女性ハンター

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/11/30
ナショナルジオグラフィック日本版

9000年前の南米アンデス山脈における狩りの様子を描いた想像画。この時代の墓を分析したところ埋葬されたハンターが女性だったことは考古学者たちを驚かせた(MATTHEW VERDOLIVO, UC DAVIS IET ACADEMIC TECHNOLOGY SERVICES)

2018年のある日。米カリフォルニア大学デービス校の考古学者ランダル・ハース氏の研究チームは、ペルーのアンデス山脈で発掘された約9000年前の墓の周りに集まった。墓の中には成人のものと思われる骨とともに、多種多様で見事な狩猟用の石器があった。大きな獲物を倒し、その皮をはぐ作業までの道具がそろっていた。

「彼はきっと優れたハンターで、集団の中でとても重要な人物だったにちがいない」。当時、ハース氏とチームのメンバーたちはそう考えていた。

だが、その後の分析によって意外な事実が明らかになった。石器のそばで見つかった人骨は、女性のものだったのだ。それだけではない。2020年11月4日付で学術誌「Science Advances」に発表された論文によれば、当時の南北米大陸では、女性のハンターは例外的な存在ではなかったという。

論文の著者らはこの発見を受けて、米大陸全域で発掘された同時代の墓の調査結果も見直した。その結果、大型動物ハンターの30~50%が女性だった可能性が明らかになった。

古代の狩猟採集社会における男女の役割については数十年にわたって議論が続いているが、今回の調査結果は、そこに新たな証拠をもたらすことになる。先史時代には男性が狩りをし、女性は採集と育児をしていた、というのが広く知られている考え方だ。だが一部の学者は、こうした「伝統的な」性別による役割分担は、19世紀以降の世界の狩猟採集民を調査してきた人類学者の記録に由来するもので、古代の人々にも当てはまるとは限らないと主張してきた。

今回の調査結果は、ペルーの人骨が狩猟をする女性だったことを裏付ける確かな証拠だ。だがその他の多くの証拠は長い間見過ごされてきたと、米マイアミ大学の考古学者パメラ・ゲラー氏は指摘する。なお氏は今回の研究には関わっていない。

「データはそこにあるのです。研究者たちがそれをどう解釈するかが問題です」と氏は言う。

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男女の役割という意識はあったのか
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