形や梱包材に工夫あり 環境に優しいラベルレス飲料

飲料メーカーがラベル包装のない「ラベルレス」のペットボトル飲料を続々と発売し、売り上げを伸ばしている。廃棄時にラベルを剥がす手間が省け、SDGs(持続可能な開発目標)にも合致する。ラベルレス商品のニーズの高まりを受け、ボトルや輸送用の段ボールのデザインなどに工夫を凝らすメーカーの動きを追った。
いち早く発売した「アサヒ おいしい水」
ラベルレス商品をいち早く発売したのはアサヒ飲料だ。2018年にEC(電子商取引)専用商品として「アサヒ おいしい水」天然水 ラベルレスボトルを発売し、その後「アサヒ 十六茶」「守る働く乳酸菌」「ウィルキンソン タンサン」などにもラベルレスを拡充。20年10月には、アサヒ飲料として初となるラベルレス専用商品「アサヒ 緑茶」ラベルレスボトルも発売した。同社のラベルレス全体の販売実績は好調で、「20年1~8月で前年同期比約2.2倍、8月は約2.5倍に伸長している」(アサヒ飲料マーケティング二部の飯島宙子課長)。

コカ・コーラシステムが20年4月からECを中心に販売している「い・ろ・は・す 天然水 ラベルレス」も売れている。20年4~8月の「い・ろ・は・す」ブランドの小型容器のECチャネルにおける出荷量は前年同月比で約8割増。い・ろ・は・す 天然水 ラベルレスが新規ユーザーの獲得につながっている。「い・ろ・は・す 天然水 ラベルレスの購入者の8割は、既存のい・ろ・は・すを購入したことがなかった」(日本コカ・コーラマーケティング本部ウォーターグループの富重豪グループマネジャー)という。

ラベルレス商品は当初、ECチャネルから導入が始まったが、リアルチャネルにも拡大してきた。サントリー食品インターナショナルは20年4月と8月、緑茶「伊右衛門ラベルレス(首掛式ラベル付)」を、コンビニと駅売店で数量限定で販売した。同商品は4月に大規模なリニューアルを行い、ラベルレス商品の販売はキャンペーンの一環。通常のラベルを巻いた商品は「ラベルを剥がして、緑茶の色を楽しみながら飲む」という飲み方提案をテレビCMなどで展開し、ブランド全体の売り上げはリニューアル前後1カ月で約2倍に伸長。い・ろ・は・す天然水 ラベルレスと同様に、新規顧客の開拓にも貢献しており、「ラベルレスタイプの伊右衛門の購入者は、これまで接点が少なかった若い世代の比率が高かった」(サントリーコミュニケーションズデザイン部の西川圭デザインディレクター)と話す。

ラベルレスだからこそ優れたデザインが求められる
メーカー各社の売れ行きからも、ラベルレス商品に対するニーズが高まっていることが分かる。ユーザーにとってラベルレス商品を購入する魅力の一つは、ボトルをごみとして捨てる際にラベルを剥がす手間が省けることだ。プラスチックごみの減量にもつながり、SDGs(持続可能な開発目標)にも合致する。
ただ、ラベルを剥がしたペットボトルの見た目は、どこか味気ないとも言える。実際、コカ・コーラシステムが実施した調査では「ラベルを剥がしたペットボトル飲料はおいしくなさそうに見える」「中身が分からず、移し替えているようで貧乏臭く感じる」といった意見もあったそうだ。また、ECで購入した商品は家で消費すると思いがちだが、外に持ち出す人も一定数いることも分かったという。
そこで、い・ろ・は・す天然水 ラベルレスは、デザイン性の高いオリジナルのペットボトルを開発した。水のおいしさが感覚的に伝わるように、ボトルの形状はひねりを利かせた多面体。リブと呼ばれるペットボトル特有の縦や横に入る、強度を保つためのくぼみは排除した。同社は以前からペットボトルのデザインに関して研究を重ねており、ひねりを利かせた6面体のボトルなどで特許を取得している。

「今回のボトルは横からの強度が弱く、自販機での販売はできないが、飲み終わった後は簡単に潰すことができる。い・ろ・は・すブランドの潰しやすさは継承している」(富重グループマネジャー)

アサヒ飲料は、配達時の段ボールのデザインで差異化を図っている。インテリアの邪魔にならないように、クマの親子のイラスト入りのかわいらしいデザインを採用。20年6月からは、小さな子供のいる家庭に照準を合わせ、新型コロナ禍によって増えている「おうち時間」を楽しんでもらおうと、段ボール箱の一部を切り取ると「輪投げ」や「こま」として遊べる絵柄入りにした。

サントリー伊右衛門のデザインは、「人はペットボトルの飲み物を持っているだけで、ちょっと安心するものだ」という考えから、森羅万象に神を感じる「八百万(やおよろず)の神」のような「お守り」に見立ててデザインを検討。ボトルの表面に招き猫をはじめ、縁起のいいモチーフをちりばめた。ラベルを剥がしたらちょっと笑顔になれたり、前向きな気持ちになれたりする仕掛けにもなっている。
(ライター 西山薫)
[日経クロストレンド 2020年11月2日の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。