無人島でサバイバル生活

専攻したのは「バイオロギング」だ。バイオロギングとは、動物行動学の研究手法の一つ。空を飛びまわる鳥類や、海に生息するクジラやイルカなどの生物は、人がそばで付きっきりになって観察し続けることが難しい。そこで、研究対象の個体に行動記録計や全地球測位システム(GPS)などの機器を取り付け、データを取得して分析する。

「人の見えないところ」にいる動物を、観察する。キャトログの発想の原点になったのが、まさにこの技術だった。

研究生活は興奮の連続だったが、特に忘れられないというのは、大学院時代にオオミズナギドリという海鳥の研究に没頭したことだ。風呂もトイレもない無人島に3日間ほど泊まり込むことを繰り返した。

「その鳥は、大群で島にやってきて、掘った巣穴の中で産卵し、ひな鳥を育てるんです。私は巣穴の中に腕を突っ込んで親鳥つかまえ、両手で抱えてセンサーを取り付けた後、解放する。親鳥は餌を取りにいきますが、数日たつと、ひなに食べさせるために巣穴へ戻ってきます。そのタイミングでまたつかまえて、センサーを回収。泥まみれになりながらの鳥との格闘は、体を張った『土木作業』のようなものです。そこから、研究室で頭をフル回転させて解析を行うという全く異質な作業まで、一気通貫でやれるのがとても面白かった」

体を張る作業と、頭をフル回転させる作業。興味がわいたら無人島にでも乗り込む好奇心と、仮説・検証を何度となく重ねる分析的思考力。対極的なそれらの資質は、伊豫氏の中で何の矛盾もなく両立している。

「ペット用=犬用」の考え方に伊豫氏は異を唱える

「バイオロギングの研究経験からいえる、非常に基本的なことの一つは、動物はその種類によって、さらにいえば個体によっても、とても多様な特徴を持っているということです。ペット用ウエアラブル端末の先行事例は、海外にはすでにありますが、『ペット用』と銘打っているにもかかわらず、犬を念頭に置いて開発されているものも多い。そういう端末が、他の動物になじむわけがないんです」

ゼロからイチを生み出す起業家は、その世界を深く知らない者からすると、革新的なひらめきの才能に支えられていると見られがちだ。だが、そのアイデアは、どこからともなく降りてくるわけではない。伊豫氏の言葉からは、専門的な研究に没頭していた経験があるからこその、生き物に対する「解像度の高さ」がにじむ。

だが、起業までの道のりは一本道ではなかった。伊豫氏は修士課程の修了後、それまでのキャリアとは全く結び付かないようにも映る、リクルートへの就職を決める。

(ライター 加藤藍子)

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