長く付き合う「腸の現代病」 求められる職場の理解
産業医・精神科専門医 植田尚樹氏
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安倍晋三前首相が持病の「潰瘍性大腸炎」の再発を理由に辞任しました。2007年の第1次政権での退陣に続くもので、慢性疾患の治療の難しさを改めて印象づけました。
慢性的に下痢や腹痛、血便をもたらす「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」は原因が不明の炎症性腸疾患(IBD)で、根本的な治療法が確立されていないため、厚生労働省から特定疾患(難病)に指定されています。
潰瘍性大腸炎は大腸が連続的に炎症を起こし、粘膜にただれや潰瘍ができる病気です。
クローン病は炎症が粘膜から消化管の壁面に及ぶ疾患で、大腸にとどまらず消化管のどの部位にも発生する可能性があります。潰瘍がひどくなると腸から腸以外の器官とつながって穴をあけたり、腸が狭まり腸閉塞となったりする場合があります。痔(ぢ)を生じることも少なくありません。
いずれも20歳代~40歳代に患者が多くみられることが特徴です。ストレスが症状を悪化させるとも指摘されており、「腸の現代病」とも呼ばれています。
職場で言葉を荒らげる
IT企業に勤める40歳代男性の事例です。
人事部の担当者から「職場での振る舞いに問題があり、業務に支障を来している」と面談を求められました。
本人に話を聞くと「不眠が続きイライラしやすい」とのことでした。そもそもは、腹痛と血便が続き、痛みで夜も眠れなかったそうです。近くの病院で受診したところ、内視鏡検査で潰瘍性大腸炎と判明。一度は入院したものの、退院してもイライラが治まらないというのです。
治療のための食事制限が原因で、妻と言い争いになることもしばしば。さらに職場でも、同僚や上司の一言に思わずカッとなり、言葉を荒らげてしまうことが頻繁にあるというのです。こうしたことから、産業医に相談が持ち込まれたようでした。
面談では、不眠については専門医に薬を処方してもらうように助言。さらに本人の同意を得たうえで、職場の上司に対して、産業医から病気の特徴について詳しく説明し、理解を促しました。
産業医として長年いろいろな会社で面談や健康相談にあたってきましたが最近、炎症性腸疾患による訴えが目立って増えてきたように思えます。