倉田さんも起業部でビジネスのノウハウを学んだ。各所で新規事業のプレゼンテーションをし、独立系ベンチャーキャピタル(VC)のANRI(東京・渋谷)から奨学金30万円も得た。メディアアーティストの落合陽一筑波大学准教授など識者から助言も受け、起業につなげた。落合さんからは「UVカットの服なんていくらでもあるが、(皮膚の病の)君がやることに意味がある。そこをうまくブランド化すれば、1億円ぐらいの利益の出るビジネスになるかも」と励まされた。
年内にもクラウドファンティングをスタートし、自らデザインした洋服の販売を始める考えだ。N高にも自身のブランドの服を着て来るなどアピールも欠かさない。同時に有名大学への進学を目指している。
関西の有名私立辞めてアスリート支援事業

N高発の起業家は関西からも誕生した。河合佑真さん(現在は法政大学キャリアデザイン学部1年生)と池田逸水さん(N高3年生)は、20年3月にアスリート支援の株式会社「SUPOTA」を設立した。2人は大阪市の心斎橋キャンパスで先輩後輩として出会い、起業部に入部。発展途上のベンチャースポーツの支援を目的に起業した。
実は2人は関西の有名私立校を辞め、N高に転じたという共通体験を持っている。河合さんは「将来はサッカーで生計を立てようと思っていたが、高1の時にケガと病気で断念。授業にも出ず、寮にこもっていたが、これじゃダメだ、環境を変えようとN高に転校した」という。一方、中高一貫の進学校に通っていた池田さんも「中2の頃、このまま勉強しても将来が見えないとすごく不安になった」と進路を変えた。興味のあったプログラミングの勉強もできるN高に入った。
河合さんは「日本ではマイナーで発展途上だけど、海外では人気のあるスポーツは少なくない。そんなベンチャースポーツの選手は資金面で困っている」と池田さんと一緒に起業を考えた。
河合さんがリーダー、池田さんがエンジニアとして、マイナースポーツのアスリートを紹介する図鑑サイト「V Doc.」を開発、運営する。このサイトをベースにイベントなどを展開して、アスリートを支援するという。直径122センチの巨大ボールを使った「キンボール」というカナダ生まれの屋内球技の体験会なども開いた。
河合さんは東京の大学に進学したが、常にチャットなどで情報を共有。池田さんは美大進学を志望しており、ウェブデザイナーとしての腕を磨く考えだ。
今や生徒数で日本最大規模になったN高。全国の19カ所でキャンパスを展開、多種多様な生徒が集まる。企業でのインターンシップに参加したり、東大や京都大学に進学する生徒もいれば、過去に不登校だったり、発達障害の生徒もいる。生徒が急増して、受け入れ限界数の2万人に迫るなか、角川ドワンゴ学園は21年4月に茨城県つくば市に新たな通信制高校の「S高校」を開校する予定だ。N高とは同じ課程で、兄弟校になる。
N高に入りわずか2年目で千葉県の柏キャンパスの立ち上げを任され、最年少でキャンパス長になった若山先生はN高をこう紹介する。「ダイバーシティーな学校です。よく教科書を忘れる生徒がいた。本人も悩んでいて、ある日、解決策を考えたと言ってきた。学校と自宅、移動用に同じ教科書を3冊用意したというのです。それでも忘れたことがありましたが(笑)。他の学校の教師なら、あきれたり、叱ったりするかもしれないが、我々は寛容に受け入れる」。既存の学校の画一的な教育のあり方に一石を投じたN高。単純にネットを活用するのではなく、様々なタイプの生徒と先生が真摯に向き合い、一緒に解を探している。
(代慶達也)