スーツやジャケットをオーダーする際、知っておきたいのがバラエティ豊かな生地の特性だ。基本的な生地については「十分理解している」と思っている洒落者はきっと多いと思う。が、男性の装いが時代とともに変化するにつれ、ニーズも変化する。この数年はまさに激変。その中、ファブリックのラインナップにも、最近は大きな変化が表れている。一方で、働き方に合わせた機能素材も次々に登場。中には抗菌性を持ったものまで登場してきた。そんな激動の生地事情を紹介する。あなたの生地の知識を、ぜひアップデートしてほしい。
「さっそく生地の達人に今の傾向を伺いました」
鏡 陽介さん/日本橋三越本店 パーソナルオーダーサロン バイヤー
生地事情に造詣の深い鏡バイヤーがまず語るのは、以前なら好まれた繊細な生地から、長持ちでハリがあり、仕立て映えする伝統的な英国素材へのニーズの変化だ。「スーツが仕事の必需品ではなくなり、コスチューム化しました。そのため、今後はさらに、自分の個性に合うものや、長持ちするものが求められるでしょう」と鏡さん。そんな変化を踏まえ、4プライの極細繊維で織った生地の別注など、上質さと耐久性の両立も図られている。また、単品使いできるセットアップも注目されていて、こちらでは「英国カントリー調の生地が人気」という。ほかに3シーズン対応、進化系機能素材など時代を反映した生地のニーズも高まっている。
今求められるのは、長持ちする安心感
「耐久性◎の太番手の無地系」
せっかくスーツを買うのならば、長持ちするものを選びたい。こんな声が大きくなった昨今、求められるのが耐久性のある素材だ。評価されているのは、質実剛健な英国または、英国調の生地。特に50番から54番くらいの双糸を織ったもので、紡毛、またはそれに近い風合いの梳毛を使った生地は要注目。従来は趣味性が高く、通好みなジャンルであったが、今後はより一層、スーツ選びの主力的な生地になることが予想される。色味はベーシックな無地系で織り柄や杢調で変化をつけたものも人気だ。
このジャンルの特徴
・生地にハリがあり、仕立て映えする
・耐久性が高く長く着ることができる
・紡毛や、それに近い梳毛も目立つ
・“ベーシック無地”が圧倒的な人気を誇る
■KYNOCH(カイノック)
【ヘリテージツイスト】メランジヤーン(多色使いの糸)の36番双糸による立体感のある色出しが特徴。糸に追燃を掛けて厚みのある風合いを実現。 オーダースーツ22万円~/ヒデアキ サトウ(日本橋三越本店)
■FRATELLI TALLIA DI DELFINO(フラテッリ・タリア・ディ・デルフィノ)
【アルキビオ 1903】奥行きを感じさせる杢調の美しい発色が特徴。英国的ではあるがイタリア生まれとあって、ほどよい柔らかさと膨らみを備えている。耐久性がありながら、今どきの着心地を得られる風合いは◎。