目標達成への重要な一歩 森美術館館長 片岡真実氏
――キャリアを意識したきっかけはありますか。

「キャリアは仕事に対して後からついてくるもの。キャリアを積み上げることに関心はない。それよりも、大きな目標に向かって仕事をすることを大切にしている。他者との比較ではなく、自分の思う最も理想的な美術館を創ることだ」
「例えば、東京オペラシティアートギャラリーのチーフキュレーター(学芸員)の時は、東京にはない新しい国際標準の現代アートをいかに具現化するかを考えながら仕事をしていた」
――トップに立つとはどういうことですか。
「大局的な見地から方向性を示す職務。当館なら世界の近現代美術館の動向と照らしながら現状をふかんし、どうあるべきかを考える。誰もがアイデアや意見を言い合える環境をつくることも重要だ」
「現在、開催中の展覧会では、私を含め6人のキュレーターが関わっている。それぞれが別のアーティストを担当し、古い資料をひもとくなどしながら、深掘りしていく。一人ひとりの知識、経験などを結集させることで優れた展示会が実現する」
「特にクリエイティブな仕事では、年齢に関係なく素晴らしいアイデアをどんどん取り入れていかないと、良い企画は生まれない。リーダーはそうした議論の雰囲気をつくり、メンバーの意見を言葉でしっかりフィードバックする。皆が納得できる結論を共有できるようにすることも必要になる」
――管理職に就きたい女性が少ない現状があります。
「一企業内の出世や肩書より、自分なりの大きな目標を持てるかどうかがカギだ。人生で自分は何をしたいのかを考えて働けば、むしろ責任を持ち、自由が広がる管理職は目標達成への重要な一歩だと認識できると思う」
――若い人に伝えたいこととは。
「何事も自分だったらどうするかを、常に考えることが大切になる。今年、館長に就任したとき、スタッフを集めて言った言葉がある。それは木を見て森を見ることが非常に重要ということ。目の前の木を丁寧に育てながら、森の育ち具合も意識する。目の前の仕事に気を取られていると、全体を見渡す視点を失ってしまう」
「世界はグローバル化で複雑化している。約140の国と地域から専門家が参加する国際博物館会議では、昨年9月に開催した京都大会でミュージアムの新しい定義を採択することができなかった。異なる文化的背景を持つメンバーが集まると、たった99ワードの文章でも意見を一致させることが難しいと実感した」
「自分と違う文化や社会背景を持つ人々の意見をどのようにまとめるか。また、状況に合わせて柔軟に自分を変えていけるかどうかが、リーダーの資質として求められる」
(清水玲男)
女性の登用が進まない理由として「女性自身がリーダーになりたがらない」という話をしばしば聞く。
21世紀職業財団が男女の一般正社員4500人を対象に1月に実施した調査によれば、「管理職になれるとしたらどう思うか」との質問に「なりたい」「推薦されればなりたい」と回答したのは男性37.4%に対し、女性は29.5%だった。職種による違いもあるが、女性の方が昇進には消極的という結果だ。
しかし、「上司(管理職)に活躍を期待されているか」という質問への回答結果に注目したい。「期待を言葉で伝えられている」女性の管理職志望は36.7%と男性並みに上がり、「言葉では伝えられていないが態度や雰囲気で感じる」女性も33.5%と全体平均を上回る。反対に「言葉でも伝えられていないし、態度や雰囲気でも感じない」女性は22.5%と、管理職への意欲が大きく下がる。
上司は男性ばかりという職場で、女性が管理職となって働く姿をイメージすることは難しい。役員となると、なおさらだ。ロールモデルがそろっている男性社員とは大きく違う。女性社員にはこまめに管理職への期待を口にし、戦力として育成していくことが大切だ。調査では「上司が面談などで今後のキャリアについてアドバイスしてくれる」場合、女性の37.9%が管理職を志向するという結果も出ている。
[日本経済新聞朝刊2020年9月21日付]