米実業界にもっと黒人登用を――。こうした目的を実現するためにユニークなプログラムを導入した米国の大学がある。首都ワシントンDCにあるハワード大学だ。奴隷制が廃止される以前から黒人の教育水準向上を狙って設立された「歴史的黒人大学」の中でもトップ校と位置づけられており、高等教育履修と社会的地位向上を目指す黒人学生の登竜門となっている。
ハワード大学は2020年初め、アマゾン・ドット・コム傘下の映画制作部門アマゾン・スタジオと提携して、映画の都ハリウッドに学生を送り込んで、エンターテインメント全般を学ばせるプログラムを開設した。名付けて「ハワード・エンターテインメント」。映画監督や俳優、脚本などの芸術面から、プロデューサー、マーケティングといったビジネス面、そしてエンターテインメント関連の法律まで、映画制作全般に関わる人材を養成する。
同大学はリベラルアーツと呼ばれる文化系学部から理工系、法学、医学・歯学部まである総合大学なだけに、ハワード・エンターテインメントには様々な学部・学科の学生が参加している。将来弁護士を目指す法律大学院(ロースクール)の学生は、エンターテインメント法を学んで、映画制作の際の契約書の作成の仕方などを習得する。
「学生はアマゾン・スタジオへの就職の機会を狙えるだけでなく、ハリウッドの他の映画関係者とのネットワークづくりの機会も持てる」。プログラムのディレクターを務めるアリシア・オノフー氏は狙いを説明する。
同大学の企業との提携はこれが初めてではない。17年には検索大手グーグルと提携し、シリコンバレーに学生を送る「ハワード・ウエスト」を設立した。コンピューターサイエンスを学ぶプログラムをはじめとする企業との提携で実績を積んだ。このプログラムが成功し、他の黒人大学も参加する黒人学生参加の一大ハイテク履修プログラムになった。
「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命は大切だ)」。白人警察官による黒人男性の暴行死をきっかけに人種差別への抗議運動が全米に広がり、米国に根強くはびこる黒人の社会格差に改めて光が当たった。同時に米企業は黒人社員の採用を増やすなどの対応に動き始めた。
ハワード・エンターテインメントの開設は事件の前ではあるが、アマゾンからハワード大学に提携の申し入れがあったのは、こうした社会問題の存在が源流にあった。
米国の映画・エンターテインメント業界は依然として白人主導で、人種多様化の必要性を指摘する声も多い。カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校の調査によると、17年時点で劇場映画の監督全体に占めるマイノリティーの比率は12.6%と白人の87.4%を大幅に下回った。米国の人口構成でマイノリティーは39%を占めることを踏まえても、人口動態に根ざした業界の人種多様化は進んでいないことが明らかだ。