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60歳以降は社会保険の加入状況の確認を

――続いて、60代前半でがんになった嘱託職員Bさんのケースです。Bさんが家計を考えるポイントを教えてください。

事例2
63歳男性で妻と2人暮らし。定年退職して嘱託職員になったが、抗がん剤治療のため休職中。傷病手当金の受給があと3カ月で終わる。年金受給の65歳まで、どう収入を確保すればいいか。65歳まで住宅ローンが残っている。

まず、60歳以降の方は、社会保険の加入状況によって、使える選択肢が変わってきます(下図)。

60~65歳未満の働き方と社会保障制度の選択肢

出典「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」より 特定非営利活動法人がんと暮らしを考える会 石田修平、近藤明美、賢見卓也(2017)

Bさんは傷病手当金が使えましたが、社会保険に入っていない方は、傷病手当金は利用で きません。また65歳までの方が、病気などで障害を負った場合に年金が支給される障害年金 [注3]にも関係してきます。

60~65歳までの間には、選択肢の一つに年金の繰り上げ受給があります。しかし、繰り上げは基本的にお勧めしていません。なぜなら、繰り上げる期間に応じて減額調整されるため、 もともと受給できるはずだった年金額に比べると減るためです。ですので病状や生活設計なども含めて総合的に判断されることをお勧めします。「社会保障制度の選択肢」(上図) チャートで選択肢を整理し、悩む場合は社会保険労務士に相談されるといいでしょう。

[注3]加入している年金保険により、障害基礎年金(国民年金)、障害厚生年金(厚生年金)に分かれる。人工肛門の造設、咽頭部摘出を受けた人などで受給できる可能性がある。手続きは、障害基礎年金は市町村役場の国民年金の窓口、障害厚生年金なら職場の年金事務所へ。

住宅費は居住と資産、2つの視点で検討

――Bさんは住宅ローンが残っているとのことですが、このようなケースはどうやりくりすればいいのでしょう?

相談者の中には60歳以上で住宅ローンが残っている方も少なくありません。40代で住宅ローンを組み、退職金があり、60歳以降も働く予定であった方々がその傾向にありますね。

――私もそうでしたが、まさか40代で自分ががんになるとは、思わないですからね。

そうですよね。経済状況によっては、がんをきっかけに予想していた生活設計を変更せざるを得ない方もいますので、今後ご本人と家族がどのように過ごしていきたいのかを確認しながら、自宅をどうするかの方向性を一緒に考えています。

60歳以降に関しては、年齢的に先ほどご紹介した「リスケジュール」は行えないこともあります。そのため、住宅費を「資産」と「居住」の2つの観点で考えていくことがポイントとなります。後々の相続にも関係する可能性があるので、同居別居関係なく家族で話し合うことが大切です。資産の面では、住宅ローンがどのくらい残っているのか、自宅の資産価値はどのくらいなのか、治療費や生活費、そして他の負債はあるのかなど、今後必要なお金によっても自宅の活用方法の選択肢は大きく変わります。

居住の面では治療環境や家族の生活状況も大きな決め手となります。通院、通学や実家から近い、そして一番は「ここで過ごしたい」という気持ちです。住む家としての思いや考えとともに金額面を含め方向性を家族で一つにすることが大切です。

具体的な選択肢としては、自宅を担保にお金を借りる「リバースモーゲージ」は場所によって資産価値が決められる傾向にあり、不動産としての価値が借りられる金額に反映されます。

よく似た名前の「リバースモーゲージ型住宅ローン」もあります。こちらは住宅ローンを借り換えし、利息のみを返済します。リバースモーゲージは借りたお金の使い道が自由ですが、リバースモーゲージ型住宅ローンは借り換えになるので住宅関連にしか使えません。いずれの場合も、ご本人が亡くなった後に、相続人が返済または自宅の売却により返済することになります。

この他に、自宅を不動産会社などに売却し、賃貸に変更して住む「セール&リースバック」という方法もあります。この場合は、住宅の名義が変わっても、周辺の一般的な賃料を払いながらその家に住むことも可能です。そして現在の住まいにこだわらなければ、新たに住宅を探し、コンパクトな家に住み替えるのも、住宅費を調整する方法の一つです。生活環境も生活設計も大きく変わる自宅に関しては、試算したうえで家族間で話し合い、しっかりと検証してから選択されることをお勧めします。

住宅費用の選択肢

出典「がんになったら知っておきたいお金の話 看護師FPが授ける家計、制度、就労の知恵」※リバースモーゲージは利息返済なしのタイプもあり

――住宅費の他には、どこを見直すといいですか。

相談者の傾向として、住宅費の次に多く支出を占めているのは、生命保険料です。60歳以降のご家庭は子どもが独立していることが多く、試算すると高額な死亡保障は必要でないケースがあります。ですので残される配偶者の収入と受け取れる遺族年金や資産の状況から、現在の必要保障額を試算しています。ただ、この年代の方が入っている生命保険は利率が良いときのものが多く、解約は第一選択ではありません。解約しなくても、保険料の払い込みを中止する方法や保険料支払期間を延長する方法、保険金を減額する方法など選択肢はありますので、必要保障と家計の状況、保険の加入状況をみながら見直ししていくといいでしょう。

――がん患者さんの年代によって、チェックするポイントは変わってきますね。

そうですね、がん患者さんは、同じがんの部位であっても治療期間、治療費はそれぞれに異なります。そして安心した生活の維持となると、働く世代なのか、リタイア世代なのか、家族構成によっても「かかるお金」と「入ってくるお金」は違うので、お金の悩みも変わります。お金の悩みの解決において皆さん共通することは、まずは 漠然としたお金の不安をなくすことです。かかっている病院の医療ソーシャルワーカーに悩みを相談してみてください。利用できる制度のアドバイスが受けられるでしょう。そして、働く世代の方は、がんになっている、なっていないに関係なく勤務先の就業規則を一度確認してみましょう。病気になったときに使える会社独自の制度が設けられていることもあります。

治療費を捻出していくための住宅ローンや保険、教育費といったお金の具体的な解決方法に関しては、様々な選択肢があります。選択に悩むようでしたら、がん患者の生活に詳しいFPにご相談されるのも方法の一つです。大切なのは、1人で悩まないことです。

(ライター 福島恵美)

黒田ちはるさん
黒田ちはるFP事務所代表。1981年生まれ。千葉市在住。看護師、国際基準を満たしたFPの資格であるCFP、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格を持ち、「看護師FP」として、がん患者専門の家計相談を行う。NPO法人がんと暮らしを考える会の相談員でもあり、病院内でお金と仕事の相談事業にも従事している。

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