変な広告マンこそ、信頼築ける

――チームとしての成功体験はありますか。

「30代半ばのころ、営業で担当していた大手家庭品メーカーの仕事ですね。顧客は業界ナンバーワン企業でしたが、競合も力をつけてきた状況です。複数のライバルに挟み撃ちに合う形で、年々業界内のシェアが落ちていました。顧客とは約半年ごとにキャンペーンを作るのですが、何度も広告を提案していく過程で、相手先の参加する部署というか、ステークホルダーが増えていきます。すると、自然と新しいことや挑戦ができなくなってしまいます」

得意先に対して、「ちょっと違うんじゃないですか」と言えてこそ広告マンだと考える

「あるとき、顧客から『博報堂さんとはもう仕事はしない』と言われました。私は担当者に『1回だけ、御社内の事情に縛られない自由な提案をさせてほしい』と頼み込んだのです。それで駄目だったら、終わりで構わないと。私はすぐに新しいチームを社内で立ち上げて、顧客から一切口出ししないという条件で広告を提案しました。顧客の社内でも『何か新しいことがやれたら』という思いがあったのでしょう、提案が採用されて、低迷していた売り上げも改善しました。結果として顧客の役に立てたのですが、顧客も含めて率直に意見をぶつけ合うことができてこそチームだ、という意識が芽生えました」

――ご自身はどんなタイプのリーダーだと思いますか。

「言葉は良くないですが、『共犯者』を作ることがうまいと思っています。広告会社はサービス業としての役回りもあるので、得意先が求めていることに応えることが基本です。得意先がうまくいっているときはそのままで良いのです。むしろ、業績不振など難しい局面に追い込まれたときに何ができるかが重要です。博報堂がいる意味を考えたとき、得意先の『かゆいところをできるだけ早くかいてあげる』ことに価値があるのではなく、得意先の傍らに立ち続けることが求められている役割なのです。傍らに立ち続けるには信頼関係を築く必要があります。得意先に相談されても『分かりました、やります』と駆け足になるのではなく、『ちょっと違うんじゃないですか』と切り返せるような関係を結ぶように心がけてきました。顧客からは『変な広告マンだな』と思われたかもしれませんが、そういう関係を築くと得意先が困ったときに、声がかかるようになるんです。そういう駆け引きがうまいのかもしれませんね」

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水島正幸
1960年東京都生まれ。82年慶大法卒、博報堂入社。2017年博報堂社長兼博報堂DYホールディングス取締役。19年博報堂DYホールディングス社長。

(荒沢涼輔)

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