思い込み捨てまず行動を

アパショナータ代表 パク・スックチャ氏

――目標を達成できない原因をどのように考えますか。

ぱく・すっくちゃ ペンシルベニア大経済学部卒。米国系運輸企業などを経て、2000年にアパショナータを設立。ダイバーシティの専門家として企業の風土改革や研修に携わる。米シカゴ大経営学修士(MBA)。

「仕事と子育ての両立支援策は根本的な課題の解決につながらなかった。長期の育休制度を利用するのは結局、女性だ。制度の導入で逆に子育てや家事が固定的になり、ほぼ1人でこなす『ワンオペ育児』という現象まで生んだ。制度自体が女性は家事・育児、男性は仕事というジェンダーバイアス(性別役割分担意識)がベースになっている」

「一方で女性は男性よりも昇進意欲が低いことがある。労働政策研究・研修機構の2016年の調査では、課長職以上への昇進を希望する総合職女性の割合が男性より2割超低かった。私がコンサルティングしている企業からも『管理職になるのを断ったり、昇進試験を受けない女性が多い』という声を聞く。主な理由は女性が男性よりジェンダーバイアスが強いことと、自分の実力を過小評価することだ。過小評価するのは世界の女性に共通する傾向だ」

――意識を変えるにはどうすればいいでしょうか。

「自信と能力には相関関係がなく、自信と思い込みに相関関係があることを理解すべきだ。そして『自分はできない』という思い込みは変えることができる」

「自信をつけるためには行動をしないといけない。私が実施している研修の後半では、具体的にどのようなアクションをすべきかを考える。受講生には『自信がなくても行動すれば後から自信がついてくる』と伝えている」

――ほかにも女性の活躍を阻む要因はありますか。

「家事の負担が大きいことも問題だ。シンガポールなどアジアでは家政婦を雇い、欧米では夫婦の家事の分担が進んでいる。世界と比べて日本の女性は負担が大きい。責任のある仕事を受けられない」

「総務省の労働力調査や国際労働機関が提供する各国の女性管理職比率と、各国の統計部門がまとめた夫婦の子育て時間などを見ていくと、夫の家事の時間と女性の管理職比率に相関関係がある傾向がみられる。夫が家事をするほど、女性のキャリアの選択肢は広がるということだ」

「必要のない家事を減らし手を抜くことを考えたほうがよい。私は子供と話す時間だけは確保すると決め、買って済ませられる食事づくりなどは無理をしないようにした。仕事に集中できる夫と、時短勤務で家事を背負う妻で年収差が広がると、夫婦の発言権にも差がでてしまう。家事分担を話しあうことは重要だ」

「コロナ禍の在宅勤務では家族全員が家にいて、妻の家事負担が増えている。夫ができることを増やせば家族関係は良くなる。家事の分担について話し合える良い機会だ」

■一人ひとりの取り組み必要
 「職場で能力を発揮できないのはもったいない」――。インタビューで伝わってきたのはそんな思いだ。少子高齢化の進展で生産年齢人口は30年後に3割減る見通しだ。一人ひとりの能力を最大限引き出すことが何より求められている。成果を出せずにいる原因を政府や社会風土に押しつけるのは簡単だが、それではいつまで経っても解決しない。
 女性であることを理由に、進学や就職に関して挑戦することを良しとしない親からのプレッシャー、採用の際に一般職などコースを選択させる企業の採用方式、メディアにももちろん責任はある。各人が向き合わなければ解決にはほど遠い。新型コロナウイルスによって労働環境が激変したように、10年後の社会がどうなっているのか誰も予想できない中で、長期で取り組んでいる余裕はない。

(キャシー・松井氏の聞き手は女性面編集長 中村奈都子、パク・スックチャ氏は荒牧寛人)

[日本経済新聞朝刊2020年8月3日付]