女性輝く企業なぜ業績堅調 多様な考え、投資家も評価
少子高齢化やグローバル化で事業環境が変化するなか、上場企業で多様な意見を経営に反映する動きが活発になっている。女性を経営陣に登用するよう求める投資家の声も大きくなった。女性活用に積極的な企業の業績や株価が堅調と指摘する声は、経営上無視できなくなりつつある。
「今こそダイバーシティー経営が重要だ」。資生堂の魚谷雅彦社長が会長を務め、女性役員比率の向上を目指す「30%クラブ・ジャパン」は5月、企業が新型コロナウイルスの危機を乗り越え、成長していくためにこう訴えた。取締役会などの意思決定機関では、意見の多様性が危機管理能力を向上させると強調。実際に女性取締役の比率が高い企業はリーマン・ショックなどの環境変化に対して強く、回復が早かった事例があると主張した。
積極的な女性の活用が、企業にプラスに働くケースは増えている。
経済産業省と東京証券取引所は毎年、女性の活躍を推進する上場企業を「なでしこ銘柄」として公表。行動計画や女性の管理職比率の開示、取締役の有無に加えて、自己資本利益率(ROE)も評価対象とする。2019年度は46社を選出した。東急やカルビーといった常連組も多いが、各業種の枠は1、2社で入れ替わりが激しい。熊谷組や特種東海製紙が初めて、AGCが6年ぶりの選出となった。
熊谷組では担当者が建設現場を直接訪問し、トイレや更衣室、アメニティ設備など女性が働きやすい環境かを確認する「ダイバーシティパトロール」を始めた。男性の育児を推進する目的で、子が生まれた男性社員に育児休業・休暇制度の案内を送付する。
経産省と東証の分析では、19年度に選定した46社を東証1部平均と比較すると、売上高営業利益率はなでしこが9%台と約3ポイント、配当利回りは同2.7%台と約0.4ポイント上回った。収益が安定する大企業が多いという点を考慮する必要はあるが、女性活躍に積極的な企業は、財務面でも優位性がある傾向だ。経産省で女性活躍やダイバーシティーを担当する積田北辰・経済社会政策室長は「女性活躍と財務に直接の因果関係を説明するのは難しいが、相関関係は出ている」と話す。
採用活動でも追い風が吹く。経産省が18年度の「なでしこ銘柄」と、次点の「準なでしこ」を対象に実施したアンケートでは、約65%が労働市場からの評価が高まったと回答した。経営陣や社員の意識が向上したとの声も多く、企業にとってプラス面が多かったことが読み取れる。
市場評価も高い。女性の雇用や昇進などのデータを基に構成する「MSCI日本株女性活躍指数」の株価を3月末と比べると、上昇率は11%でTOPIX(9%)を上回る。背景には環境、社会、企業統治に配慮したESG投資の広がりがある。女性は意見の多様性を構成する要素として「S(=社会)」や「G(=企業統治)」と結びつく。
「MSCI日本株女性活躍指数」の上場投資信託(ETF)を担当する大和アセットマネジメントの大野恵莉子ファンドマネージャーは「女性活用に積極的な企業はESGスコアの高い銘柄が多く、幅広い投資家の買いを集めやすい」という。ESGスコアは環境への配慮や社会貢献、人権、企業統治体制などを数値化したもの。評価機関が判断材料の一つとして提供する。
ESGを重視する投資家からは女性活用を求める声が強まっている。英最大級の運用会社リーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)は今年から、女性取締役が不在の日本企業について、社長などの選任に反対する方針を示した。LGIMジャパンの福田愛奈氏は「取締役会のダイバーシティなど危機的な状況下にこそ多様な考え方ができる人材が必要だ」と話す。
近年、海外投資家は日本企業に対してROEの改善などを求める傾向にあった。しかし、社会の持続可能性への注目度が増し、好業績であっても投資対象としないケースが出てきている。「長期的な視点ではROEは必ずしも有効な指標ではない」と福田氏はいう。むしろ、「長い目で見ると、日本企業にはより重要なガバナンス上の課題が多くあると考えている」。
経産省のまとめでは日本の企業の女性の役員比率は19年度で5%台。男性社会や年功序列の文化が残る企業も少なくない。昭和・平成時代では女性を活用できなくても企業は収益を拡大させることができたが、大量生産・大量消費社会が終わり、若者を中心に価値観が変化している。
世界では膨大な情報を武器にGAFAといわれる米アップルなど巨大企業が存在感を高めており、日本企業は従来型の経営手法では太刀打ちできない可能性がある。女性を生かし、経営参画を促すことが日本企業の課題になる。
古い体質打破のカギ
過去に大手企業でみられた不正会計問題などをみると、年功序列をベースにするがゆえに意見を言いにくい、日本企業の体質が浮かび上がる。最近は社外取締役の導入が進むものの、海外の投資家が納得するような状況にはまだ距離があるように感じる。女性活躍推進はそうした壁を打破していくためにも、重要なカギになりそうだ。
女性の活躍は企業にとってポジティブであるのは明白だが、「女性を活用すれば業績がよくなる」といった単純な話でもない。ただ「なでしこ銘柄」でみられたように時代の変化という荒波を乗り越えていく上で、メリットの方が大きくなりつつある。多様性を重視する動きが広がれば、日本企業の活力となるかもしれない。
(鈴木孝太朗)
[日本経済新聞朝刊2020年7月20日付]
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