「だしのテイスティングができたらおもしろいというアイデアを実現させました」と高津社長

――「場」と「バー(BAR)」をかけたネーミングや、だしの立ち飲みスタイルは大きな話題を呼びました。

日本橋再開発の過程で「だしのテイスティングができる場所があったらおもしろいのでは」というアイデアを耳にし、それを実現してみたわけです。もっとも、社内では様々な議論がありました。「そもそもだしを飲むのか」から始まり、「試飲であって、お金をとっていいものか」などなど。立ち飲みスタイルになったのは、単なるスペースの問題で、座って飲む場所が作れなかったからです。ネーミングは得意先の方とお酒を飲んでいた時、場とバーの響きにピンときて、メモした内容を組み入れました。

――ヒットの予感はありましたか?

だしがそんなに売れるとは思っておりませんでした。それより、ひいただしを使ったオフィスワーカー向けのランチ用だしスープやごはんものの販売を主力に考えており、「だしは一日数十杯程度出たらいいね」と考えていた程度でした。ところがいざフタを開けてみると逆で、最盛期には一日1000杯以上のだしが売れたのには正直、驚きました。さすがに今は、新型コロナウイルスの影響で、かつての勢いはありませんが。

――老舗の経営者というお立場については、どうお考えですか。

自分では老舗ということをなるべく意識しないようにしています。そもそも自ら「老舗」と口にすることはありません。「この店は長く続いているわね」と周囲が認めてくれてこそ、老舗であって、自ら発信するものではないと考えています。あくまで今は、のれんを預かっている立場であって、良い状態で次の代にバトンタッチできるよう頑張る、というスタンスで日々の経営に臨んでいます。

時代時代で社会は大きく変貌し、コロナ禍で世の中は今、ものすごい状況になっています。その変化にしっかりと対応し、生き続けていくための有効な手を打つことが肝心だと改めて痛感しています。

高津伊兵衛(たかつ・いへえ)
にんべん13代当主で社長。1970年東京生まれ。93年青山学院大経営学部を卒業後、高島屋に入社し、横浜店に勤務。96年にんべんに入社、2009年に社長に就任し、20年2月、13代高津伊兵衛を襲名。日本橋室町二丁目町会長を11年務め、現在は副会長。NPO法人日本料理アカデミー正会員。一男一女の父でもある。

(堀威彦)

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