白河 「リモートワークに関しては『現場の社員は歓迎ムードでも、パソコンに不慣れな年長の世代が消極的』という状況がよく聞かれるものですが、御社の場合はいかがでしたか」

吉野 「正直、当社にも近い雰囲気はありました。ただ、コロナの影響で役員クラスも含めて全員が日常的に在宅勤務を経験したことで、ガラリと変わったと思います。もともと働き方改革によってモバイルパソコンの導入や在宅勤務制度などの環境整備が整っていました。また、昨夏はオリンピックに向けて全社でテレワークを推進していたなどの追い風もあって、『オンライン会議もやってみると悪くないね』という反応が上層部からも増えました。やはり体験の効果は大きいです」

物永真衣さん(プロモーション事業部兼働き方改革推進部)

物永真衣さん 「弊社もすでに制度として、誰でも1カ月に6日まで在宅勤務できる環境ではあったのですが、これまでは『子育てや介護など特別な事情がある人が使うもの』というイメージがありました。これからは全社員が在宅を適宜織り交ぜながら、より生産性の高い仕事を目指すスタイルに変わっていくのではないかと感じています(取材時の6月の出社率は50%)。『あたらしい転勤』の制度化についても、3月時点では『検討』レベルだったのが、4月以降は『来年度の制度化に向けて頑張るように』という、より強い後押しを感じるようになりました」

コロナでオフィスの価値を見直す

宮関裕香さん(中央営業管理部)

白河 「リモートで働くことへの抵抗感がなくなりつつあるのですね。一方で、『これはリモートでは難しいよね』と再認識する部分も見えてきたのではないでしょうか」

吉野 「ありました。今まさに社会全体で議論がなされている『オフィスの価値』について再定義する機会になりました」

白河 「まさにオフィス中心地の大家さんという御社の本業に生かされる気づきですよね。今後、オフィスの価値はどのように変わっていくと思いますか」

吉野 「しばらく在宅勤務を続けて久しぶりに出社したときに感じる『人と直接会って話すことの幸福感』や『意思到達の速さ』などの『対面の価値』が、これから大切にすべき『オフィスの価値』ではないでしょうか」

原田真希さん(丸の内営業管理部)

原田真希さん 「同じ場にいるからこそ効率的にスキルやノウハウを伝えられる、教育上の価値も大きいと思います。私はちょうどこの春に部署異動になったタイミングで在宅勤務に。ちょっと誰かに聞きたい疑問点が出てきたときに、オフィスだったら、同僚の手が空いたときを見計らって聞けるのですが、リモートではなかなかタイミングを計れなくて、業務の引き継ぎにも時間がかかってしまいました。私の場合は異動でしたが、入社後間もない社員はもっと大変だっただろうと思います」

吉野 「個人的に一番実感している『オフィスで働く価値』は、コミュニケーションに余白があることです。例えば商談の前に上司とエレベーターの中で確認をしたり、『それでは今日はこれで』と商談を終えてからお客様と軽く話をする数分の間に、交渉がぐっと進んだりすることはよくあるなぁ、と。リモート会議では、この『前後の余白』が生まれにくいなと感じています。

こういった価値にフォーカスしたオフィス環境とは何か、より深く考えるようになりました。会話が自然と弾むレイアウトなのか、おいしいコーヒーなのか。わざわざ来たくなるような付加価値がオフィスに求められていますね」

白河 「社会全体で『対面の価値』を考える機会が増えたことは、『あたらしい転勤』を進める強力なエンジンになりそうですね。さらなる発展を期待しています。がんばってください」

あとがき:毎年新しい働き方、営業の価値のヒントを与えてくれる「エイジョカレッジ」の受賞者を、今年も取材することができました。満場一致のグランプリも、各社が「転勤」という課題を抱え、それに果敢に挑戦した姿に共感したからこそです。エイジョの試みの価値は、実証実験にとどまらず、その後、企業の正式な施策として広がっていくこと。営業職女性たちが知恵を絞り汗を流した結果が、会社自体を変革する原動力となるのです。19年と20年の何が違うかといえば、強制的に多くの企業人が「在宅勤務」を経験したことで、リモートに抵抗がなくなったこと。対面がマストという営業スタイルを変え、持続可能なキャリアの可能性を広げる「転居しない転勤」が多くの企業にも変革を起こすことを期待しています。

白河桃子
 少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大特任教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(文:宮本恵理子、写真:吉村永)