最新栄養指針で見えた 日本人の食事に足りないもの

日経ヘルス

筋肉量の低下を避けるために、たんぱく質が必要? 写真はイメージ=(c)dolgachov-123RF
筋肉量の低下を避けるために、たんぱく質が必要? 写真はイメージ=(c)dolgachov-123RF
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厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」が5年ぶりに改定された。過去5年間の日本人の健康と栄養に関する科学的研究成果が反映された今回(「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」の改定。どのように家族の健康づくりに生かすか、改定の背景を専門家に聞いた。 今回のポイントは、「筋肉量・骨量を保つ食事」を重視したことだ。

「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」での改定の主なポイントについて、厚生労働省などが発表し、広く報道されたのは「高齢者のフレイル予防」についてだ。フレイルというのは、いわば健康な状態から要介護になる中間段階。その背景にある食事の問題を改善するため、総エネルギー量に占めるたんぱく質由来エネルギー量の割合の下限を65歳以上では13%から15%に引き上げた。

「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」では高齢者のフレイル予防が改定のポイントとなった。写真はイメージ=(c)Shao-Chun Wang-123RF

しかし、同時に注目したいのは、男女全世代の1日当たりのたんぱく質維持必要量を増やすように変更された点。2017年の国民健康・栄養調査では、女性は20~50歳代で「やせ」の人(BMIが18.5未満)が10%を超えていた。20歳代では21.7%だ。背景にあるのは不必要なダイエット。

調査に当たった国立健康・栄養研究所の瀧本秀美さんは「やせた女性をやせたおばあさんに移行させないことが大切」だという。改定からは「女性は、これまで以上にしっかりたんぱく質をとってほしい」と読み取れる。

骨の健康を保つのに必要なビタミンDの目安量を増やす

瀧本さんが女性やその家族にとって重要な改定のポイントを挙げたのが下表だ。例えば、ナトリウム(食塩相当量)については、調査の結果、世界的にも多い日本人の摂取量が減っている傾向が見られた。しかしWHO(世界保健機関)が示した循環器疾患の予防に必要な1日の目標量5g未満とは差があり、「より頑張って」というメッセージを込めて引き下げられた。

また、調査から若い世代は高齢者と比較して野菜や果物、魚介類の摂取量が少なく、動物性脂肪の摂取量が多いことがわかり、それが将来の生活習慣病のリスクにつながると考えられた。その改善を促すために飽和脂肪酸、コレステロール、カリウムの改定を行った。

このほか骨の健康を保つのに必要なビタミンDの目安量を増やすとともに、その脚注では過度な紫外線対策をしがちな女性を念頭に、適度に日光を浴びることの必要性も訴えている。

記載した食事摂取の基準値の種類について *1「たんぱく質維持必要量」:健康を維持するために必要なたんぱく質の栄養素としての量。肉や魚など食品の量ではない。 *2「目安量」:(ある性・年齢階級に属する)人々が、良好な栄養状態を保つために十分な量。不足による問題が見られない集団において習慣的に摂取されている量の中間値として算出された。 *3「目標量」:生活習慣病の一次予防のために現在の日本人が当面目標とすべき摂取量、またはその範囲。

食事摂取基準は食品ではなく栄養素の量で示しているので、一般の人が日常の献立作りに役立てるのは難しい面もある。瀧本さんは「知りたいことがあれば地域の保健センターの管理栄養士などに相談してほしい」と話している。

(取材・文 荒川直樹)

[日経ヘルス2020年4月号記事を再構成]

瀧本秀美さん
国立健康・栄養研究所 栄養疫学・食育研究部長。医学博士。栄養疫学の専門家として「日本人の食事摂取基準」の改定や「国民健康・栄養調査」に携わる。「今回は大きな変更はありませんでしたが、将来妊娠を考えている女性は葉酸(1日当たり400μg)をサプリメントなどで補ってほしいです」。

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