コロナで休業の妊婦支援 収入減や検査費を国が助成
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新型コロナウイルス感染症への不安を抱える方は、いまだに少なくありません。緊急事態宣言の解除後、以前と同じような通勤ラッシュの光景が見られるようになりましたが、妊娠中の女性にとっては、大変な不安を抱えているのではないでしょうか。
そこで、厚生労働省は、新型コロナウイルスへの不安から仕事を休む妊婦を抱える企業に対し、助成金を創設することを発表。また、これ以外にも様々な妊産婦への支援が打ち出されています。どのような内容か詳しくみていきましょう。
コロナ対応が追加された母性健康管理措置
男女雇用機会均等法において、以前から母性健康管理上の措置が設けられているのをご存じでしょうか。妊娠中や出産後1年以内の女性労働者(総称して「妊産婦」といいます)が保健指導・健康診査の際に主治医や助産師から指導を受け、事業主に申し出た場合、その指導事項を守るために必要な措置を講じる義務があります。
2020年5月7日、新型コロナウイルス感染症が拡大している状況などを踏まえ、妊娠中の女性労働者の母性健康管理を適切に図ることができるよう、男女雇用機会均等法に基づく指針(告示)が改正されました。
この改正により、妊娠中の女性労働者の母性健康管理上の措置に、新型コロナウイルス感染症に関する措置が新たに規定されたのです。
健康診査などを受けた結果、仕事における新型コロナウイルスへの感染のおそれに関する心理的なストレスが母体や胎児の健康保持に影響があるとして、主治医や助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主はこの指導に基づいて必要な措置を講じなければなりません。この措置の対象期間は、2020年5月7日から2021年1月31日まで。
たとえば、「感染のおそれが低い作業への転換又は出勤の制限」という指導を受けた場合は、顧客との対面で接触する機会が多い作業から機会の少ない事務作業などに転換したり、在宅勤務に切り替えたり、休業をさせたりするといった措置が考えられます。なお、この心理的なストレスには、通勤や作業環境も含まれます。
会社へ主治医などからの指導をうまく伝えるには?
ところで、女性従業員から医師や助産師からの指導をどのように会社へ伝えればよいでしょうか。口頭で「助産師から休んだ方がいいと言われました」と人事担当者に伝えても、会社として具体的な措置を決めるのはなかなか難しいものです。
そこで、活用したいのが、「母性健康管理指導事項連絡カード」(略して「母健連絡カード」)です。カードの作成方法と使い方は以下のとおりです。
(2)健康診査などを行う医師または助産師に必要な指導事項を記載してもらう。
(3)妊娠中の女性労働者が母健連絡カードを事業主に提出して、措置を申し出る。
(4)事業主が母健連絡カードの指導事項に基づき、必要な措置を講じる。
こうした必要な措置は、女性労働者からの申し出があった場合に講じることとされているため、女性労働者が心理的なストレスなどが緩和されて申し出を取り下げたい場合は取り下げることも可能です。
最近では、電話やオンラインで保健指導が実施されている場合もあります。オンラインで主治医から指導を受けた場合は、母健連絡カードの郵送などに対応しているか、また費用については医療機関によって異なりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
母健連絡カードの提示がなくても、事業主は適切な措置をとることが必要です。この場合、事業主に対して医師などからの指導事項の内容や妊娠週数、出産予定日などを書面により申し出ることが望ましいと言えます。
創設される妊婦休業への助成金とは
在宅勤務に切り替えることができればよいですが、業種・職種によってはできない場合もあり、休業措置が取られることがあります。この場合、気になるのは、「休業中の給与はどうなる?」ということではないでしょうか。
母性健康管理措置として休業が必要な場合、休業中の賃金の取り扱いについては個々の事業主に任されています。就業規則において、母性健康管理措置として休んだときは無給と規定しているケースは、決して珍しくありません。
妊婦に限らず、休業させた期間中に休業手当を支払った事業主を対象とする雇用調整助成金もありますが、申請の複雑さから利用率が高い状況とは言えず、母性健康管理措置の結果、休業になったものの給与が支払われない、ということが問題視されていました。
そこで、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症への不安から仕事を休む妊婦を抱える企業に対し、1事業所あたり20人まで助成金を支給することを発表。政府の第2次補正予算に「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置により休業する妊婦のための助成制度の創設」として、90億円が計上されました。6月8日に国会に提出し、11日に成立しました。
新たな助成金は、妊婦が取得できる有給(賃金6割以上)休暇制度を導入し、社内に周知した企業が対象。1人当たりの支給額は、休暇日が5日以上20日未満で25万円とし、以降20日ごとに15万円加算。100万円を上限とし、1社あたりの助成額は最大2000万円になるという大規模なものです。
中小企業や個人事業主に雇用されている場合、なかなかこうした制度が創設されたことまで周知が行き届かない場合もあります。そうしたときは、妊婦自らが事業主に、対応を取ってもらえるように働きかけてみるとよいでしょう。
希望すれば分娩前のPCR検査費用の補助も
この助成金とは別に、本人が希望する場合には分娩前に新型コロナウイルスの有無を調べるPCR検査を受ける費用を国が全額補助する財政支援も発表されています。新型コロナに感染した妊産婦などに対し、退院後に助産師などによる電話や訪問などの寄り添った相談支援を実施します。里帰り出産ができない妊産婦については、育児支援サービス利用費を補助します。これらの施策に対応するために政府は第2次補正予算に「新型コロナウイルス流行下における妊産婦総合対策事業」として163億円を計上しました。
企業への支援については、契約社員やパートタイマーなどすべての労働者が対象です。母性健康管理措置を求めようとしてハラスメントを受けた場合、妊娠・出産などに関するハラスメントとして防止措置義務の対象となります。困ったときは、各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ相談してみることも一つの解決方法といえます。
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所などに勤務。2005年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、働く女性のための情報共有サロン「サロン・ド・グレース」を主宰。著書に「採用と雇用するときの労務管理と社会保険の手続きがまるごとわかる本」をはじめ、新聞・雑誌などで活躍。
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