新型コロナで可能性指摘 「エアロゾル感染」とは?

日経Gooday

新型コロナウイルスは「エアロゾル感染」するって本当? そもそも「エアロゾル感染」とは?(写真はイメージ)(C)rrice-123RF
新型コロナウイルスは「エアロゾル感染」するって本当? そもそも「エアロゾル感染」とは?(写真はイメージ)(C)rrice-123RF
日経Gooday(グッデイ)

2020年2月8日、上海市政府が開いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防と管理に関する記者会見で、上海市民政局副局長のZeng Qun(曽群)氏が、「このウイルスの感染は、主に直接伝播、エアロゾル伝播、および接触伝播によって広がっている」と述べました。突如として現れた「エアロゾル伝播(感染)」という耳慣れない言葉に、不安を覚えた人も多かったのではないでしょうか。実際、最も感染力の高い「空気感染」と同一のものととらえる人も少なくなかったようです。

当初は「エアロゾルを介して伝染する証拠はない」との見解

会見でZeng氏は、「エアロゾル伝播は、空気中でウイルスと液滴が混じって形成され、吸入すると感染が生じる状態」とし、「エアロゾルは長時間空気中に漂う」と説明しました。また、直接伝播は「目の前の人の咳やくしゃみを吸い込むことによる感染」、接触伝播は「ウイルスを含む飛沫に汚染された表面を触った手で、口や鼻、目を触ることによる感染」と解説しました[注1]

ちなみにZeng氏は、医師や研究者ではなく、社会福祉、公共政策などを専門としてきた人です。 

しかしこの記者会見の翌日、中国疾病対策予防センター(CDC)が記者会見を開き、感染症を専門とする医師でWHO戦略諮問グループ(SAGE)のメンバーでもあるFeng Luzhao氏が、「新型ウイルスがエアロゾルを介して伝染するという証拠はない。このウイルスは主に接触感染と飛沫感染によって感染している」と述べ、前日の上海市政府の会見で述べられたエアロゾル感染の事実を否定しました。ただしFeng氏は、エアロゾル感染は、医療現場で気管挿管などの専門的な医療処置を行う場合など、特定の特殊な条件下で発生する場合があることを認めています[注2]

その後、2月19日に中国国家衛生健康委員会が、医療従事者向けの新型コロナウイルス感染症診療ガイドラインの改訂を発表[注3]。その中で、「密閉された空間で、高濃度の汚染されたエアロゾルに長時間さらされた場合には、エアロゾルによるウイルスの伝播は起こりうる」と、この経路での感染の可能性を示唆しました。

そもそも「エアロゾル」とは?

そもそも「エアロゾル」とは何なのでしょうか? 日本エアロゾル学会[注4]は、以下のように解説しています。

「気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子をエアロゾル(aerosol)といいます。エアロゾルは,その生成過程の違いから粉じん(dust)とかフューム(fume)、ミスト(mist)、ばいじん(smokedust)などと呼ばれ、また気象学的には、視程や色の違いなどから、霧(fog )、もや(mist )、煙霧(haze )、スモッグ(smog )などと呼ばれることもあります。エアロゾル粒子の性状は、粒径や化学組成、形状、光学的・電気的特性など多くの因子によって表され、きわめて複雑です。(中略)例えば粒径についていえば、分子やイオンとほぼ等しい0.001μm=1nm程度から花粉のような100μm程度まで約5桁にわたる広い範囲が対象となり(後略)」(※編集部注:「μm」はマイクロメートル、「nm」はナノメートル。0.001マイクロメートル=1ナノメートル=10億分の1メートル)

つまり、エアロゾルは、空気中に浮遊する、直径が0.001μmから100μmの粒子、ということになります。

エアロゾル感染の定義は世界的にもあいまい

実は、今回真偽が問題になっているエアロゾル感染について、世界的に統一された定義は存在しません。日本では、感染症は「接触感染」、「飛沫感染」、「空気感染(飛沫核感染)」、「媒介物感染(水や食品、血液、虫などを媒介した感染)」という4通りの方法で広がると見なしており、エアロゾル感染は感染経路として定義されていません[注5]

日本において、飛沫感染と飛沫核感染は、粒子径が5μm以上か、5μm未満かで区別されています。飛沫から水分が蒸発したものを飛沫核と呼び、すぐに地面に落ちる飛沫とは異なり、空気中に長く浮遊して吸入した人を感染させる(空気感染)と考えられています([注6]の図参照)。

WHO(世界保健機関)も、ほぼ同様の定義を示しています[注7]。ここでは、

●Droplets(飛沫):Respiratory aerosols > 5 μm in diameter(呼吸性エアロゾルで、直径は5μm超)
●Droplet nuclei(飛沫核):Respiratory aerosols ≦ 5 μm in diameter(呼吸性エアロゾルで、直径は5μm以下)

としており、直径5μm超か5μm以下かで両者を区別しています。ただし、WHOは飛沫も飛沫核もエアロゾルと認識しているようです。確かにこれら粒子はいずれも、サイズからいうとエアロゾルに該当します。

また、WHOの定義が世界中で用いられているかと言えば、そうではありません。欧州の論文の一部は、飛沫を吸引性(inspirable)飛沫(直径10~100μm)と吸入性(respirable)飛沫(直径10μm未満)に分け、「前者が気道上部の粘膜に付着して発生する感染を飛沫感染、後者が呼吸により気道に入るために生じる感染をエアロゾル感染(飛沫核感染とも呼ぶ)」、としています[注8、9]

つまり、空気中に存在する様々な直径の粒子が、サイズからいえばエアロゾルに該当し、飛沫も飛沫核も、エアロゾルと呼ばれることがあり、国際的には、飛沫感染と飛沫核感染の境界となる粒子径さえも統一されていない、ということになります。

ただし、世界中で認識が一致しているのは、咳やくしゃみとともに放出される大きな粒子は、短い距離しか飛ばず、短時間で床に落ちるが、小さくなった粒子は長時間空気中に留まり続け、部屋中に広がって空気感染を引き起こす、という点です。

[注1]https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_5856308

[注2] https://language.chinadaily.com.cn/a/202002/10/WS5e40c505a310128217276446.html

[注3]http://en.nhc.gov.cn/2020-02/19/c_76703.htm

[注4]https://www.jaast.jp/hanashi/

[注5]http://amr.ncgm.go.jp/general/1-1-1.html

[注6]http://www.showa-u.ac.jp/sch/pharm/frdi8b0000001sb0-att/a1437547184715.pdf

[注7]https://www.who.int/csr/resources/publications/WHO_CDS_EPR_2007_6c.pdf

[注8]https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2894888/

[注9]https://www.nature.com/articles/s41598-019-38825-y

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