今や日本人の2人に1人が「がん」にかかる時代になっている。私たちが日々楽しんでいるお酒もがんのリスクを高める要因の1つ。2019年末に東京大学で発表された論文では、日本人において少量の飲酒でもがんのリスクになると報告されている。
飲酒による影響が大きいのは「どの部位のがん」なのか、そしてがんのリスクを少しでも小さくするために飲酒面で注意すべきことは? 前回に引き続き、論文の発表者の1人である財津將嘉さんに話を聞いていこう。
前回の記事(「がんのリスク 日本人がお酒を1日1合飲み続けたら」)でお伝えした通り、たとえ少量であっても、飲酒年数を重ねていけば、がんの罹患リスクが上がることが分かった。ただし、一口にがんといっても、肺がん、胃がん、肝臓がんなど、さまざまな部位のがんがあることも忘れてはならない。飲酒により影響を受けやすい部位と、受けにくい部位があるだろうことは素人でも想像できる。果たしてどのがんのリスクが高くなるのか、気になるところである。
後編となる今回は、 前回に引き続き、論文の発表者の1人で、獨協医科大学医学部 公衆衛生学講座 准教授で医師・医学博士の財津將嘉さん(3月まで東京大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学 助教)に話を聞いていく。
飲酒によりリスクが上がるのは、どの部位のがん?
先生、研究の結果、がん全体で1.05倍罹患リスクが上がることが示唆されましたが、部位別で見るとリスクが高いのはどのあたりなのでしょう? そう尋ねると、財津さんは丁寧に解説してくれた。
「最もリスクが高かったのは『食道がん』で、そのリスクは1.45倍になりました。また、『口唇、口腔及び咽頭がん』も1.10倍という結果が出ています(咽頭は口腔と食道の間にある器官)。元々飲酒によってがんのリスクが上がるのは、食道より上部の器官、つまり『お酒の通り道』になるところと言われていますが、今回の結果でもその傾向が見られます」(財津さん)。なお、気管と咽頭をつなぐ器官である「喉頭」のリスクも1.22倍と高い。
各部位のがんの罹患リスク(10drink-year時点)
念のため補足しておくが、これらのリスクはいずれも、1日、日本酒1合(純アルコールにして23g)相当の飲酒を10年間続けた時点(10drink-year)におけるデータである。飲酒期間がより長くなり、飲酒量が多くなれば、ほとんどの部位でがんのリスクは着実に上昇する。最も顕著な食道がんの場合は、1日1合の飲酒を10年間(10drink-year)で1.45倍だったリスクが、1日2合で30年間(60drink-year)なら4倍を超える。
食道がんと飲酒が密接な関係にあることが裏付けられた
なるほど、お酒を口から飲んで胃に至るまでのルートで飲酒による影響が大きくなる。特にそこで顕著なのが食道がんというわけだ。
食道がんについては、ヘビードランカーの知人が食道がんで亡くなっているだけに大いに気になる。食道がんと飲酒の関係については、当コラムでも以前に触れているが(「のどに刺激のある強い酒 飲み続けた人の末路は?」を参照)、そこでも紹介したように、40~69歳男性約4万5000人を対象にした国内の多目的コホート研究から、飲酒習慣がある人は、飲まない人に比べて食道がんのリスクが高いことが明らかになっている(Cancer Letters. 2009;275:240-246.)。今回の研究結果において、食道がんと飲酒が密接な関係にあることが裏付けられたわけだ。