日本人の最大の死因になっている「がん」。がんに罹(かか)りたくないのは誰もが共通に願うことだが、そのためにはどんな飲酒が望ましいのか。最近では、少量の飲酒でも体に悪いと指摘されるようになったが、がんについてはどうなのだろう。
2019年12月には東京大学から、日本人を対象とした低~中等度の飲酒のがんへの影響を評価した論文が発表された。今回は、酒ジャーナリストの葉石かおりが論文の発表者の1人である財津將嘉さんに詳しい話を聞いた。
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本誌において何度も紹介してきたが、「酒は百薬の長」「酒は全く飲まないより、少量飲んだほうがカラダにいい」と以前から信じられてきた。それがまた左党にとっては好都合だった。条件付きとはいえ、少量の飲酒がカラダにいいことを示す「Jカーブ効果」のグラフ(以前の記事「『酒は百薬の長』は本当? 実は条件付きだった」を参照)は、言わば「水戸黄門の紋所」のようなものだったに違いない。
だが、ここ1、2年その流れが大きく変わってきた。世界的に飲酒の健康リスクが大きくクローズアップされるようになる中、少量の飲酒でもカラダに悪いという論文が登場したのだ。
詳しくは、2019年秋に本連載で取り上げた記事「酒は百薬の長のはずでは? 少量でもNGの最新事情」をご参照いただきたいと思うが、2018年の半ばに、世界的権威のある医学雑誌『Lancet』(ランセット)に、「195の国と地域を対象に飲酒のリスクを検証した結果、健康への悪影響を最小化するなら飲酒量はゼロがいい」という内容の論文が発表された。
この論文では、虚血性心疾患(心筋梗塞など)に対してはプラスの面がある(発症リスクが下がる)のは従来の研究結果と同じだが、がんなどに罹患するリスクは少量であっても上がるため、その効果は相殺されてしまい、トータルで考えると、飲酒量は少ないほうがいい、さらには健康への悪影響を最小化するなら飲酒量は「ゼロ」が望ましいというのだ。
「飲酒量はゼロがいい」――。
この衝撃の結果を受け、酒量が減った人もいるのではないだろうか? 筆者も、である。「お得だから」という理由で、一升瓶で日本酒や本格焼酎を買うのをやめ、休肝日を週2回から3回に増やした(守れないこともあるが)。
酒好きからすれば、これまで以上に酒量を抑えるのはつらいが、「飲酒量が少なければ少ないほどいい」というのは確かなのだろう(泣)。ただ、「日本人においてどうなのか」についてはもう少し詳しく知りたいと思っていた。
前出の論文の対象は世界中の195カ国(および地域)である。この結果がそのまま日本人に当てはまるわけではないだろう(もちろんある程度は当てはまると思うが)。よく知られていることだが、欧米人がアルコールの分解能力が高いのに対し、日本人はアルコールに強くない人が一定数いる。お酒の影響も同じというわけではあるまい。ところが、日本人を対象とした、少量飲酒におけるリスクを研究した論文はほとんど出ていないという。
と、そんなことを思案している中、2019年12月、東京大学から日本人を調査対象として、「低~中等度の飲酒もがん罹患のリスクを高める」という興味深い論文が発表された(Cancer. 2020;126(5):1031-1040.)。こちらは、新聞などの各種メディアでも取り上げられたので、目にした人もいるのではないかと思う。
日本人を対象とし、日本人の最大の死因になっている「がん」への影響を調査した研究というのだから、これは興味津々である。
日本にごまんといる左党のためにも、きちんと確認して、その内容をお伝えせねばなるまい。そこで今回は、論文の発表者の1人で、獨協医科大学医学部 公衆衛生学講座 准教授で医師・医学博士の財津將嘉さん(3月まで東京大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学 助教)に話を伺った。