末続慎吾さん 休養宣言後に「週1回バーで人間観察」元五輪陸上メダリストに聞く(中)

日経Gooday

トム・テレツコーチに指導を受けた2週間

――2017年、37歳で9年ぶりに日本選手権に復活されたことが話題になりました。

実はその年の春、カール・ルイス[注1]の指導者だったトム・テレツコーチに指導してもらう機会があったんです。

[注1]米国の元短距離と走り幅跳びの選手。5大会連続で五輪に出場し、男子100m、200m、走り幅跳び、4×100mリレーで9つの金メダルを獲得した。

2016年2月、オーストラリアのメルボルンで合宿したとき、テレツコーチの指導を受けていた選手に会いました。すると「2004年ぐらいからテレツはずっと君と仕事をしたいと言って、アプローチしていたんだよ。僕もその必要性を感じる」と教えてくれて、「練習を見てもらえばいい」と誘ってくれました。驚いた僕は「まだ走りが整っていないので、もうちょっと待ってくれ」と話し、2017年4月、満を持して米テキサス州のヒューストンへ飛びました。

テレツコーチは当時84歳でしたがバリバリの現役コーチで、陸上のこと以外は興味がない陸上職人でした。いわゆる陸上技術の完成形を持っていて、僕の走りを見ながら「これとこれとこれができれば大丈夫だから」と言って、できているかできていないかを判断しながらマンツーマンで指導してくれました。約2週間という短期間でしたが、彼の指導をすべて吸収したかった僕は、寝る前に指導を受けた画像を見ながら復習し、走ることしか考えない幸せな日々を過ごしました。

テレツコーチに教わって分かったのは、走ることの情報が多すぎてムダが多かったということ。それ以上に、「君は速い。もっと速くなる」という言葉をもらったことに僕は救われるような気持ちになりました。指導を受けてよかったと。

「『君は速い。もっと速くなる』という言葉に救われました」

――テレツさんの指導は、その後どう生きましたか。

やらなくてもいい練習が分かってきて、体のダメージが少なくなりました。その分の時間をやった方がいい練習や、そのほかの仕事に回せました。

その年の5月にテキサスの競技会で200mに出場して20秒94をマークし、日本選手権の参加標準記録を突破しました。そして9年ぶりに、6月に大阪の長居で行われた日本選手権に出場。スタートラインに立つ前は緊張して吐きそうでした。「緊張しないようにするにはどうすればいい?」とよく質問をされますが、僕が聞きたいぐらい(笑)。メダリストでも日本記録保持者でも普通の人間。試合に臨むときは、昔からいつも「怖い」と思いましたが、人の性格や性質は変わりません。でもここで緊張できたのは、現役選手として臨めた証でもあったように思います。

サニブラウン・ハキーム選手と同じ組で走り、結果は21秒50の予選落ちでした。でも、観客の皆さんの拍手がとても温かくて、素直に「ありがとう」という気持ちが湧き出てきて、とても幸せな時間でした。競技者として大事なのは記録や順位だけではなく、人に感動や興奮を与えることなんだと思い、走り続けるモチベーションにつながりました。

◇  ◇  ◇

39歳の今も現役で走り続けられる末続選手の独自のトレーニング法や生活習慣について、次回記事で紹介する。

(ライター 高島三幸、写真 厚地健太郎)

[日経Gooday2020年5月15日付記事を再構成]

末続慎吾さん
元五輪陸上メダリスト、陸上短距離プロアスリート。1980年熊本県生まれ。2003年世界陸上パリ大会200mで3位(日本短距離界史上初のメダル)。2008年北京五輪4x100mリレーで銅メダリストに(その後、優勝したジャマイカのドーピングによる失格により、銀メダル獲得に)。2015年プロ陸上選手として独立。現役アスリートとして走りながら、自身が主宰するEAGLERUNのメンバーとして、陸上競技の指導やスポーツイベントの参加など活動は多岐にわたる。

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