末続慎吾さん 39歳の今もプロ陸上選手として走る理由元五輪陸上メダリストに聞く(上)

日経Gooday

6月で40歳になる末続さん。今でも現役で走り続ける理由は何なのだろう。
6月で40歳になる末続さん。今でも現役で走り続ける理由は何なのだろう。
日経Gooday(グッデイ)

世界と互角に戦える今の日本の陸上競技男子短距離界、その功労者の一人とも言えるのが末続慎吾選手だ。2003年の世界陸上パリ大会男子200mで日本短距離界初となる銅メダルを獲得。さらに同年100mで10秒03、200mでは日本記録となる20秒03を樹立し、その記録は今なお破られていない。2008年の北京五輪では日本代表チームの一員として、4×100mリレーで銅メダルを獲得(優勝したジャマイカチームが失格となり、2018年に銀メダルに繰り上げになった)。五輪の陸上トラック種目で日本人男子初のメダルをもたらした。

そんな末続選手は39歳になった今も、プロ陸上選手として現役を続けている。プロの名を掲げて今もなお走り続ける理由や、加齢とともに変化するトレーニングについて、3回にわたってお話を聞く(インタビューは2020年2月17日に実施しました)。

――2020年2月に東京・府中市で行われた「府中駅伝競走大会」に、ご自身が主催されるイーグルラン・ランニング・コミュニティ(ERC)のメンバーと出場され、1区の4.3km(約18分)を完走されました。長距離も得意なのですか?

苦手です。これまで高校時代に走った2kmのクロスカントリーが最長で、東海大学時代の練習でも400m以上の距離を走るトレーニングは避けていたぐらいなので、人生で一番長い距離を走りました(笑)。ゲストランナーとしてご招待いただいたのですが、手を振りながら少し走るよりも、駅伝メンバーの一員としてちゃんと走った方が市民ランナーの皆さんも喜んでくださると思って。

――走ってみていかがでした?

3km過ぎから特にきつかったです。でも僕は39歳ですが、長距離の練習を一切せずに完走できたのは、やはり陸上選手としての走り方の技術を持っていて、省エネで走ることができたからだと思います。それを実感できただけでも面白かったですね。

アスリートの「セカンドキャリア」に疑問

――2019年の全日本マスターズ陸上では男子M35(35~39歳)の100mで、向かい風1.8mの中、10秒89の大会新記録で優勝し、今年も6月(編集部注:新型コロナウイルス感染症拡大防止のため秋に延期することが決定)の日本選手権出場を目指されます。40歳を迎える今も現役を続ける理由は?

陸上競技の場合、元五輪選手だとしても、多くの人はプロではなくアマチュアというくくりです。アマチュアスポーツには引退がない。だからあえて「引退します」と宣言する必要もないし、本人が望むなら生涯走り続けていいと思っています。競技スポーツのトップシーンで走れなくなったからといって、じゃあ引退なのかと言われるとそうではないと思うのです。

アスリートの「セカンドキャリア」という考え方自体に疑問があります。もちろんそういう考え方も大事だし、一旦区切りをつけて新たなキャリアを考えるというのは自分も周囲も分かりやすいですよね。一方で、「セカンドキャリアって何だよ」という思いもあるんです。あくまでも僕の持論ですが、人生をかけて競技に挑み、結果も出して多くの人に感動や元気を与えた揚げ句、なぜキャリアを一度断絶し、方向転換したりしなければいけないのかと。なぜコツコツと築いてきたキャリアを諦めるような思考を持たなければいけない世の中なのかと。

「アマチュアスポーツに引退はない。だから引退宣言をする必要もないかなと…」

――諦めるとは?

肩書をわざわざ変えず、自分ができることの幅を広げたり、高めたりすればいいのではないかという思いがあります。陸上競技をはじめとした日本のアマチュアスポーツで活躍したアスリートは、トップレベルから脱するとそれまで、のように感じています。海外ではトップアスリートに対して、現役を退いた後も世間は敬い、その功績に対する対価という恩恵を受けられる文化がある。何よりも活躍したトップアスリート自身が、自身の功績に対して誇りを持って生きているように見えるのです。

だから僕ももっと誇りを持って生きたい。今までやってきた努力やキャリアをそのまま継続していくという意味で、2015年に所属していたミズノをやめて、陸上短距離プロアスリートと名乗ることにしました。先ほども話した通り、陸上はあくまでアマチュアスポーツなので、トップアスリートとしての技術やメンタルを生かした仕事のプロというイメージでしょうか。だから競技も続けるし、今までの経験や技術を生かして、五輪を目指す選手にパーソナルに教えたり、地元の陸上教室で子どもたちに指導したり、現役選手に関する解説といったメディアでのお仕事をさせていただいたりしています。

経験を人に伝え、教えて、世の中に影響を与えていくことで、競技のトップシーンに立たなくてもアスリートとしてのキャリアを継続していく。ちょっと抽象的で分かりにくいかもしれませんが、「セカンドキャリア」という言葉に覚えた違和感を大切にして、僕なりのアスリートとしての一つの働き方や生き方を提示できればと思っています。

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