2020/6/7

スイスにある国際組織「列国議会同盟」によると、1893年に世界で最も早く女性参政権を認めたニュージーランドは、議員に占める女性の割合では全世界で20位に入っている。ただ、意思決定の役割を女性が担っているからといって、男女平等が進んでいるとは限らない。イラクの女性議員たちのように、政治家になれても、政治を動かせないこともあるのだ。

かつてイラクは、中東で女性の権利が最も認められた国だった。1959年に成立した身分法では一夫多妻、児童婚、強制婚が禁止され、離婚や親権獲得、相続における女性の権利が大幅に認められた。サダム・フセイン率いるバアス党が草案を練った1970年憲法では、すべての市民の平等をうたっている。保育の無料化や6カ月の有給出産休暇などの手厚い対応もあって、女性の識字率、教育、労働参加は向上した。

ところがその後、数十年にわたって戦争を繰り返し、厳しい経済制裁を科せられたことで、流れが変わった。2003年に独裁者だったフセインの政権が崩壊すると、保守的な宗教指導者や政治家が力を得て、女性の権利を次々と奪っていった。イラクで50年以上にわたって人権活動に携わってきたハナー・エドワーは言う。「宗教政党は、女性が高い地位に就くなど、とんでもないと思っているのです」

イラクはその後に制定した憲法で、国会議員の4分の1は女性でなくてはならないと定めた。だが、議会に参加できても意見を聞いてもらえるわけではない。2010年に北部の都市モスルから初当選した女性国会議員のノオラ・バジャリは、国会を牛耳る宗教政党や議員連合は、「女性はあくまでも数合わせであり、意思決定の役割はないと考えています」と言う。

実際、内閣など最高レベルの役職に女性の姿はないし、女性議員も結束していないとバジャリは話す。「正直に言うと、私たちはお互いを支えようとはせず、かえって足を引っぱったり、邪魔をし合ったりすることが多いのです」

国会の議席数は329。女性議員84人が結束すれば、有力な議員連合が成立するとエドワーは言うが、女性ネットワークがつくられたのは2018年になってからと最近だ。エドワーは現在も、男女問わず議員を対象としたワークショップで政治関与や女性問題の意識を高め、国会内の空気を変えようと活動している。

「宗教界出身の議員でも、考えを変える人が出てきました」。エドワーは今、努力の成果を実感しつつあるが、「本当の問題は、変化を恐れて声高に反対する議員たちがいることです。少数派ですが押しが強く、誰の声にも耳を貸さないのです」とも話す。

(文 ラニア・アブゼイド、写真 アンドレア・ブルース、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年6月号の記事を再構成]

[参考]ここでダイジェストで紹介した「女性政治家たちの苦闘」は、ナショナル ジオグラフィック日本版2020年6月号の特集の1つです。このほか、温暖化で環境が変わりつつある「氷とコウテイペンギン」、五輪競技にもなったスケートボードの誕生の地、南カリフォルニアを描いた「米西海岸 スケボー天国」、第二次世界大戦から75年の今年、米・欧・露・日本の数少ない戦争体験者から証言をきいた「大戦の記憶をつなぐ」なども収録しています。Twitter/Insagram @natgeomagjp

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