実績ある国も社会に残る反発 政治の壁に挑む女性たち
新型コロナへの対応でリーダーシップを発揮したニュージーランドのアーダーン首相。同氏だけでなく、政治の世界での女性の影響力は強まりつつあるが、依然として文化に根ざした反発は強く、時に暴力へと発展することもある。ナショナル ジオグラフィック2020年6月号では、国や地方で、政治の場へと進んだ女性たちの苦闘をリポートしている。
◇ ◇ ◇
ボリビアやアフガニスタン、ニュージーランド、イラクでは、女性たちが政治の世界で大きな力をもってきた。だが、その影響力が拡大するとともに反発が激しくなっている。
人類の歴史を通じて、政治的な発言力を求める女性たちは国に関係なく激しい抵抗に遭ってきた。中傷されるにとどまらず、暗殺されることもあった。力を勝ち取った後も、いつもの壁が立ちはだかる。女性の政治参画を法制面で支えるため、議員の人数を性別によって割り当てる「クオータ制」を定めた国は、今では世界の約半数にのぼる。
ボリビアや、内紛が収まらないアフガニスタン、イラクなども例外ではない。だがクオータ制にも限界がある。反民主的、逆差別といった批判は常につきまとう。性別だけで女性を優遇することは能力主義に反するという声もある。ボリビアでは政治に携わる女性に対する暴力による被害が後をたたない。公職に就く女性たちは、性差別的で卑劣な攻撃を受けることは避けられないのだ。
女性にとっては政治の世界に入ることだけでも大変なことだが、さらに権力の座に就いた後も、女性にやれることとやれないことが出てくる。政党や議会に多くの女性を参加させても、彼女たちの意見が聞き入れられないのであれば、名ばかりで終わる。
さらに、権力を得た女性たちが、立場の異なるほかの女性たちの意見をどこまで代弁できるのかという問題もある。それでも世界の女性たちは、介入や暴力といった障害にも負けず、政治的な権力をつかみ、強めていく努力を重ねて足元を固めようとしている。
数合わせのためだけの存在
一方、法律で定められたクオータ制がなくても、女性の政治参画を進めてきた国がある。
スイスにある国際組織「列国議会同盟」によると、1893年に世界で最も早く女性参政権を認めたニュージーランドは、議員に占める女性の割合では全世界で20位に入っている。ただ、意思決定の役割を女性が担っているからといって、男女平等が進んでいるとは限らない。イラクの女性議員たちのように、政治家になれても、政治を動かせないこともあるのだ。
かつてイラクは、中東で女性の権利が最も認められた国だった。1959年に成立した身分法では一夫多妻、児童婚、強制婚が禁止され、離婚や親権獲得、相続における女性の権利が大幅に認められた。サダム・フセイン率いるバアス党が草案を練った1970年憲法では、すべての市民の平等をうたっている。保育の無料化や6カ月の有給出産休暇などの手厚い対応もあって、女性の識字率、教育、労働参加は向上した。
ところがその後、数十年にわたって戦争を繰り返し、厳しい経済制裁を科せられたことで、流れが変わった。2003年に独裁者だったフセインの政権が崩壊すると、保守的な宗教指導者や政治家が力を得て、女性の権利を次々と奪っていった。イラクで50年以上にわたって人権活動に携わってきたハナー・エドワーは言う。「宗教政党は、女性が高い地位に就くなど、とんでもないと思っているのです」
イラクはその後に制定した憲法で、国会議員の4分の1は女性でなくてはならないと定めた。だが、議会に参加できても意見を聞いてもらえるわけではない。2010年に北部の都市モスルから初当選した女性国会議員のノオラ・バジャリは、国会を牛耳る宗教政党や議員連合は、「女性はあくまでも数合わせであり、意思決定の役割はないと考えています」と言う。
実際、内閣など最高レベルの役職に女性の姿はないし、女性議員も結束していないとバジャリは話す。「正直に言うと、私たちはお互いを支えようとはせず、かえって足を引っぱったり、邪魔をし合ったりすることが多いのです」
国会の議席数は329。女性議員84人が結束すれば、有力な議員連合が成立するとエドワーは言うが、女性ネットワークがつくられたのは2018年になってからと最近だ。エドワーは現在も、男女問わず議員を対象としたワークショップで政治関与や女性問題の意識を高め、国会内の空気を変えようと活動している。
「宗教界出身の議員でも、考えを変える人が出てきました」。エドワーは今、努力の成果を実感しつつあるが、「本当の問題は、変化を恐れて声高に反対する議員たちがいることです。少数派ですが押しが強く、誰の声にも耳を貸さないのです」とも話す。
(文 ラニア・アブゼイド、写真 アンドレア・ブルース、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2020年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。