「コロナで不安」感情の正体は 元陸自心理教官の教え元自衛隊心理教官の下園壮太さんに聞く(上)

日経Gooday

写真はイメージ=(c)maru-123RF
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日経Gooday(グッデイ)

リモートワーク、休業、子どもの休校。そして日々更新される情報に振り回される負担感、度重なる予定変更、雇用は守られるのかという経済的な心配、医療崩壊――。自分が新型コロナウイルスに感染しているのではないか、あるいは目の前の人が感染しているのではないかという疑心暗鬼も加わり、誰もが息をひそめるように長期間の「不安」を感じ続けています。

下園壮太さんは、陸上自衛隊で心理教官として20年間、隊員達の心のケアに携わり、現在は心理カウンセラーとしてカウンセリングを続けています。

震災の災害現場や紛争地への派遣、自殺や事故のケアという過酷な現場で多くの人をメンタル面で支えてきた下園さんに、私たちが直面している新型コロナ禍という有事をどう乗り越えていけばいいのかを3回にわたって伺います。

第1回の今回は、「何を信じていいかわからない」――不安をかきたてる情報との付き合い方、自分を見失わないための考え方について。

「不安」をかき立てられ、ピークになっている

編集部:テレビのニュースも、ネットも、新型コロナの話題一色です。先行きが見えないいら立ちもあり、世の中が今後ますますギスギスしてくるようにも感じます。仕事や生活環境、経済状況も大きく変わり、考えなくてはならないことは山積みだけど、力が湧かない、そんな状態の人が多いのではないでしょうか。

下園さん:私のカウンセリングもオンラインに切り替わりましたが、やはり、うつ状態が悪化している人が多くいます。新型コロナという危機はまさに世界中の“有事”であり、「不安」という大変なストレスを私たちにもたらしています。

いつもは元気な人も、今は不安によって疲れがたまってきている。もうコップからあふれそうな状況の人も多いと察します。自責感や無力感も加わり、うつ状態になる人は、今後世代を問わず増えてくるでしょう。揺らいでいる心を支えるためにも、「不安」という感情の正体を知り、正しい取り扱い方で接することが必要です。

私は、感情というものを理解する考え方のベースとして、「全ての感情は、命を守るためにわき上がる」というふうにとらえているんですね。感情は全て、自らの安全、命の存続と、種の保存につながっている。それが本人にとっては迷惑で、早く消えてほしいと思う感情であったとしても、感情はその目的が果たされるまでは、騒ぎ続けます。

この視点で不安をとらえると、不安とは、「身に迫っている危険を感じ取り、なんらかの行動を促す感情」です。危険信号が入ってきたときに、準備するか、逃げるか、あるいはじっと洞穴に閉じこもるかといった「行動」につなげる、という目的を持った感情だと理解してください。

不安は「よりネガティブな情報」を選び取る

編集部:まさにコロナ禍は、命の危機を訴えかけてくる状況です。ウイルスは目に見えず、当初予測されていたよりもとても厄介な性質を持っているようです。自分が感染予防のために行っている対処がどこまで効果的かもわからない。「不安をかき立てられる」という状況が、2月からずっと続いています。

下園さん:ここで、例え話をしましょう。暗闇で猛獣のうなり声が聞こえたような気がした。声の方向を見たら何かが動いた。仲間かもしれない。風の音かもしれない。しかし、楽観は禁物です。声の正体は猛獣だ、という前提で見ないと、食べられてしまうかもしれません。こういうときは、安心しきっているよりも、「悪いことが起こるかもしれない」と身をすくめておいたほうが生きる確率は確実に、高まるのです。

私たちは、不安があるおかげで、手洗いもする、人との接触距離もとるという対処をとることができています。

しかし、問題は、感情はすべてその人を「乗っ取る」ほどの力を持っているということ。

ですから、不安は、本能が「まだ、対処不十分だぞ」と感じる限り、拡大していきます。 それが情報をとるときに影響をもたらすのです。

安全な情報は見逃しても、命には関わらない。しかし、不安は見落としてはいけない。だから、私たちは不安をきっかけに情報を収集するときに、その実態はさておき、「より、ネガティブな情報を好んで選択しようとする」という性質を持っています。

もう一つ、今の状況を見据えるときに知っておきたいのは「不安は情報によって生じるが、情報によって消える」ということです。

「大きい獣だったよ」という情報にみんな騒ぎますが、「でも、草食だよ」という情報があると、落ち着く。ところが、あるとき誰か一人が小さい声で「でも、人も食べるかもね」とつぶやいたらどうでしょう。「人を食べるかもしれない!」という情報だけが拡大して広まるでしょう。このように、現在は、不安が拡大したり、少し小さくなったりととにかく日々忙しく、そのたびに私たちは振り回されます。楽観的な情報、悲観的な情報、いろいろあったとしても、人は「悪いことが起こる」というイメージでもって、無意識のうちに、悲観的な情報を選び取るのです。

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