がん検診を受ける人に伝えたいこと

──がん検診を受ける患者側に、先生が伝えたいことはありますか。

検診をしっかり受けることも大事ですが、「要精密検査」になったとき、再検査の受診率が非常に低いことも問題になっています。大腸がん検診で便の潜血が出ても、「痔だと思っていた」と放置していて、進行がんが悪化して来院される方もいます。偽陽性で空振りという場合もありますが、社会復帰を考えれば、早期発見して負担の少ない治療で回復するのが大事。精密検査は必ず、そしてなるべく早く受けるべきですね。

──自分自身ががんになって気付いたことはありますか。

自分でも驚いたのは、がんになったことに対する罪悪感のような気持ちが湧き起こるということです。当時、家族は両親しかいませんでしたが、親に対して「申し訳ない」というような気持ちになりました。また、「がん」という言葉はネガティブな表現として使われていることにも気付きました。例えば雑誌の記事などで病名ではなく、「社会のがん」といった表現を見るとドキッとします。自分が責められたような気持ちがするんでしょうね。それは自分ががん患者になって初めて気付きました。だから患者さんに説明するときも、「がん」という言葉は必要最低限に抑え、「腫瘍」や「悪性腫瘍」といった表現を使うようにしています。

──がんの治療に関しては、加藤先生が受けた頃と変わってきていますか。

最近は、がんでも7割近くが治る時代です。私がかかった15年ほど前は5割程度でした。肺がんや乳がんの治療では、正常な細胞をがん化に導く遺伝子変異が多く見つかっていて、その働きを阻害する「分子標的薬」の開発が進んでいます。

今、分子標的薬は第1世代から第3世代まで進んでいます。特に私のかかった腺がんは細分化が進んでいて、遺伝子変異をターゲットにした薬がたくさん開発されています。さらに最近はノーベル賞受賞でも注目されたオプジーボのような「免疫チェックポイント阻害薬」が登場してきた。このため肺がんのステージ3、4期の治療はこの十数年で全く別物になってきています。

──がんの先進医療にはお金がかかるというイメージがありますが。

心配される方もいますが、今は多くの治療薬が保険適用になっています。以前は「ドラッグラグ」といって欧米で使える薬が日本では認可されていないというケースもありましたが、承認が非常に早くなっているのでタイムラグはほとんどありません。最新の治療薬でも、健康保険でカバーできるものがほとんどです。

──治療がそれだけ日進月歩なのであれば、患者側はどうやって情報収集すればいいのでしょうか?

2000年代前半から、がん治療のガイドラインが作成されるようになりました。これは私が医師になった1999年には無かったもの。医療者向けのガイドラインは書店で誰でも購入できますし、胃がんや乳がんであれば、患者さん向けに解説した治療ガイドラインも出ています。ネットの情報でも、国立がん研究センターのウェブサイトなどは情報がしっかりしているのでお薦めです。患者さん自身もガイドラインを読んで正しい知識を持つことが大切だと思います。

買い物をするとき、セールスマンの言いなりで買う人はいませんよね。治療も医師の言いなりになるのではなく、まずは自分で正しい知識を調べ、検査の結果や医師の説明を聞いて、コミュニケーションを取りながら判断することが大切だと思います。

(文 竹下順子、写真 武藤奈緒美)

[日経トレンディ2020年5月号記事を再構成]

加藤大基さん
川崎幸病院 放射線治療科部長、放射線治療センター長。東京大学医学部卒業後、放射線科医として国立国際医療センター、癌研究会附属病院、東京大学医学部附属病院などに勤務後現職。
ウェルエイジング 健康で豊かな人生のヒント