世の中には一見合わなさそうな組み合わせだが、食べてみたらおいしいものが意外とある。たとえば、バニラアイスに醤油(しょうゆ)を垂らすとみたらし団子のような味わいになったりするし、大手コーヒーショップのメニューにもなってブレイクしたほうじ茶に牛乳をいれたほうじ茶ラテなどもそうだ。そしてコーヒーに塩も実に合う。
コーヒー発祥の地であるエチオピアでは、伝統的に塩を入れて飲む習慣がある。もともとはエチオピア特産のコーヒー豆「モカ・シダモ」が非常に酸味が強い品種のため、その酸味を打ち消すために塩を入れ始めたのがきっかけだそうだ。おいしかったのでそのまま定着したのであろう。

コーヒーに塩を入れて飲む習慣はエチオピアに限らず、コーヒーの生産量の多いカリブ海近辺の国々でも行われている。塩入りコーヒーは決して特殊な嗜好ということではないのだ。
コーヒーに塩を入れると、味わいにどのような変化が起こるのか? コーヒー1杯(200ミリリットル)に塩小さじ10分の1(約0.5グラム)程度を入れて味わってみてほしい。コーヒーの酸味が消えて苦味が和らぎ、非常にまろやかな味わいになるのがわかる。塩のしょっぱさを感じることはほぼないはずだ。
これは、味覚の抑制効果によるもの。しょっぱさ、甘味、苦味、うま味、酸味の5味が基本だが、組み合わせ方によって相乗効果が出たり、対比効果がでたり、抑制効果が出たりする。
たとえばカツオ節単体の出汁(だし)より、コンブとカツオ節の合わせ出汁のほうが濃厚なうま味がでるのも、うま味とうま味の相乗効果で、スイカに塩をかけて甘味を引き出すのがしょっぱさと甘味の対比効果だ。
抑制効果が出るのは組み合わせが決まっていて、しょっぱさと苦味、しょっぱさと酸味、甘味と苦味を合わせた際に作用する。しょっぱさによって苦味と酸味が打ち消されるため、全体的にまろやかな印象の味わいに変化する。いつもの味わいに少し変化を付けて楽しみたい時や、酸味が強すぎるコーヒーを飲む際にはもちろん、いれてから時間がたち、酸化してしまったコーヒーにも塩を入れると酸味が抑えられるので、多少はおいしく飲めるようになる。