日経Gooday

<クラスターA>
発端者:55歳の女性(患者A1)と56歳の男性(患者A2)
患者A1とA2は武漢市からの旅行者で、1月19日にシンガポールに到着。同日、2人で地域の教会を訪れた。患者A1は1月22日に、A2は24日に発症した。これら2人と同じ19日にその教会を訪れていた、53歳男性(患者A3)と39歳女性(患者A4)、52歳女性(患者A5)が、それぞれ1月23日、30日、2月3日に発症した。患者A5は、教会でA1とA2が座った後のいすに座っていたことが、監視カメラによって確認できた。その日に同じ教会を訪れたこれら以外の人のCOVID-19発症はなかった。

<クラスターB>
発端者:54歳女性(患者B1)
患者B1は2月15日に夕食会に出席し、そこでCOVID-19患者と接触した。2月24日、B1と63歳女性(患者B2)が同じ合唱サークルに参加。2月26日に患者B1が発症し、2月29日にB2が発症した。

<クラスターC>
発端者:53歳女性(患者C1)
患者C1は2月26日にCOVID-19患者と接触し、その後、同居していた夫である59歳男性(患者C2)に感染させたらしく、2人はともに3月5日に発症した。

<クラスターD>
発端者:37歳男性(患者D1)
患者D1は、2月23日から3月2日までフィリピンを訪れ、のちに死亡した肺炎患者と接触した。D1は、帰国後、35歳の妻(患者D2)に感染させたようで、2人はそろって3月8日に発症した。

<クラスターE>
発端者:32歳男性(患者E1)
患者E1は2月29日から3月8日まで日本を旅行。そこで感染し、帰国後、同居していた27歳女性(患者E2)に感染させたと考えられた。2人が発症したのは3月11日だった。

<クラスターF>
発端者:58歳女性(患者F1)
患者F1は2月27日に合唱サークルに参加し、そこでCOVID-19患者と接触した。その後、3月1日に教会の礼拝に出席、F1の後ろの列に座っていた26歳の女性(患者F2)と29歳の女性(患者F3)に感染させたとみられる。患者F1とF2は3月3日に、F3は3月5日に発症した。

<クラスターG>
発端者:63歳男性(患者G1)
患者G1は3月3日から7日までインドネシアを訪問。帰国の翌日となる3月8日に、36歳女性(患者G2)と接触し、感染させたと考えられた。患者G1は3月9日に発症し、G2は3月12日に発症した。

これらのクラスターでは、上述した経路以外に感染が発生する余地がありませんでした。クラスターC、D、Eでは、同居人に感染させていたため、いつ感染が成立したのかは推定できませんでしたが、クラスターA、B、F、Gでは、発端者が発症する1~3日前に接触した人が感染していました。7つのクラスターにおいて、発症前感染を受けた人は10人でした。これは、3月16日までに同国で報告された地域での感染者157人の6.4%に相当します。

発症時には、発熱と咳が多く認められ、感染経路としては飛沫感染または接触感染が考えられました。合唱団での感染は、日本や米国でも報告されています。

「社会的距離」を広げなければ感染拡大防止は困難

先頃、広州医科大学などの研究者たちが行った研究[注3]でも、「感染の44%は発症前に起きている可能性がある」と指摘されています。これは、中国内外のCOVID-19患者に複数回行われたPCR検査の結果をもとにモデルを作製し、患者が周囲の人に感染させる期間を検討した研究の結果です。感染力が最も強いのは発症日、またはその前の数日間であると推定されました。また、新型コロナウイルスは、COVID-19患者の唾液中に継続的に存在している、という報告もあります[注4]

発症前の感染者は見分けることができないため、そうした人からの感染を防ぐためには、自ら社会的距離の拡大[注5]を図ることが重要です。また、「3つの密(密閉、密集、密接)」と呼ばれる、感染リスクがある場所を訪れた後には、「もしかしたら自分が感染しており、発症はしていないが人に感染させる状態にあるかもしれない」と考えて外出や人との接触を極力控えることも非常に大切です。

今回得られた結果は、新型コロナウイルスの感染拡大予防策において、個人および社会が、社会的距離の拡大に努めることの重要性を強調するものとなりました。

[注3]He X, et al. medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2020.03.15.20036707.

[注4]To KK, et al. Clin Infect Dis. 2020 Feb 12 : ciaa149.

[注5]社会的距離拡大(ソーシャル・ディスタンシング)とは、人と人との接触をできるだけ減らす(人と人の距離を拡大する)こと。具体的な対策には、患者の自己隔離、接触者の自宅待機、外出自粛など、個人が自主的に行うものと、学校閉鎖、集会などの自粛や延期、人が集まる場所の閉鎖や制限、企業活動の縮小など、企業や自治体、政府の関係機関が主導して行うものがある。

大西淳子

医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

[日経Gooday2020年4月7日付記事を再構成]

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