1970年代に米国からコンビニを日本に持ち込み、POS(販売時点情報管理)導入や共同配送の実現など、新しい小売りのビジネスモデルを作り上げた鈴木氏は「コンビニの父」と呼ばれる。「消費は心理学」が口癖で、顧客目線での商品づくりにこだわり、トップ自ら商品の試食もしていた。しかし2016年、会社の幹部人事を巡る混乱から、突然退任を発表。現在は東京都内のホテルの一室で静かに過ごしている。心理学を勉強する慶應義塾大学の山田璃々子さんが鈴木氏の執務室を訪ね、人の心理のつかみ方や、リーダーのあり方について聞いた。
「僕はビッグデータは好きじゃない」
山田 私は大学構内で食事を提供する「キッチンカー」を運営しています。大学生って朝ごはんを抜いている人が多いんです。ほっと一息をつける場所を提供できればいいなと思って始めました。ところが、鈴木さんがよくお話されている「お客様の立場にたつ」というのが全然できていなくて。どうしたら人の気持ちをつかめるようになるのか、お聞きしたいです。
鈴木 僕が新卒で入ったのはトーハンという出版取次の会社だったの。入社した頃に出版科学研究所ができて、そこに配属された。どんな本がどんな人に売れているのかを調べたり、読者に集まってもらってグループディスカッションしてもらったり、というのが最初の仕事。それには統計学や心理学を知らないといけないでしょ。毎日仕事が終わって夕方5時ぐらいから、大学の先生の講義を受けてたんです。
山田 著書のなかで、誰かがコーヒーがほしいと言ったわけじゃないのにコーヒーマシンを導入して成功したというお話がとても気になって。まだ「声」になっていない「声」を鈴木さんはどうやって聞いていたのでしょうか。
鈴木 最近よくビッグデータという言葉を聞くでしょ? 僕はビッグデータというのは好きじゃない。それは過去の集積だから。過去の集積が将来を物語るということはない。まず自分で仮説を立てるわけ。たとえば店頭で牛乳はだいたい何本くらい売れるだろうか、どこのメーカーのが売れるだろうかということの仮説を立てて、POS(販売時点情報管理)で数字を見る。つまり、自分の仮説を検証する。
山田 仮説が大事なんですね。それはどうやって思い浮かぶんですか。