新型コロナウイルスの影響はどうか。就職説明会や面接などのオンライン化が進めば、体に触れるなど従来型のセクハラは起きにくくなる。それでも、企業業績の悪化で採用人数が抑えられる事態になれば、学生の立場が弱まり、力関係の変化が会社側の気の緩みを生む可能性はある。
労務や就職問題に詳しい今津幸子弁護士は「就活生を下に見る勘違いが会社側の言葉に出る懸念はある。失言があればSNS(交流サイト)ですぐに拡散される時代になっており、それは企業の評価を下げるリスクになる」と警鐘を鳴らしている。
採用活動は会社のコントロール下で

企業にとっての就活セクハラのリスクなどを今津弁護士に聞いた。
――会社側が採用面接の質問で気をつけるべきことは何でしょうか。
「『それを聞いてどうするの』という質問はしないことだ。会社にとってはリスクしかない。聞くべきなのは、その人材が入社後にどう役立ってくれるのか、会社に対してどれだけ熱意をもってくれているのかであって、個人的な興味ではない。そこに男女の差なんてないはずで、例えば女性にする質問を、同じように男性にするかどうかを考えればわかる。面接官が会社の看板を背負っていることをきちんと自覚していれば、できる質問、できない質問、おのずと線引きできるはずだ」
「場をなごませたいのなら、恋愛のことではなくて、面接官が海外旅行など自分の趣味を話せばいい。握手などのボディータッチがいけないのは、職場も同じだ」
――OB・OG訪問での注意点は。ネットを通じたマッチングサービスの普及で社員と就活生が非公式に接触しやすい環境になっています。
「会社のコントロールが効かない採用活動はすべきではないと思っている。悪意をもった社員個人の動きが就活の一環だとみなされたら、使用者責任は会社が負うことになる。就活生の訪問を受けられる社員を選別してもいいと思う」
「内定者との懇談会などを含め、お酒が入るときはより気をつけないといけない。会社によっては『飲食なし』にしているくらいだ。打ち解けるからこそ、話せることもあるのはわかるが、さじ加減がきちんとできないといけない」
――会社としてセクハラを未然に防ぐために必要なことは。
「遠回りであっても研修・教育がすべてだろう。10年前までは加害者を『仕事はできる人材だから』と擁護する風潮が多分にあった。今はセクハラする側が100%悪いというのが常識になってきた」
「セクハラ対策はトップダウンで進めるべきだ。トップが『昔はおおらかだったのに』と言っている会社ではセクハラは絶対なくならない。今ならセクハラと言われかねないことを、トップ自身がかつてしたことがあったとしても『心を入れ替えて、少なくとも今はセクハラはいけないと思っている。だからこそ本当に気をつける』と言えば、社員も理解してくれるのではないか」
――企業が就活セクハラを起こした場合の最も大きなリスクは。
「『見えないレピュテーション(評判・評価)』ではないか。学生の立場からすると、セクハラ被害を堂々と訴えるのは相当に勇気がいる。ほとんどが泣き寝入りだと思う。それでも受けた側にとっては忘れられない出来事。何かのきっかけで、突然に報道などで顕在化すれば、スキャンダラスに扱われる面もあって、企業のダメージは非常に大きい」
(天野豊文)