ダイヤモンドプリンセス 医師が見たコロナ感染の実態

日経メディカル

増悪時は急速に

岡崎の受け入れ施設はまだ開設前の病院建物であり、前提として医療処置が不要と考えられる無症候の人を選択して搬送してもらいました。発熱がないことはもちろんのこと、出発前にSpO2(編集部注:酸素飽和度。肺や心臓の病気で酸素を体内に取り込む力が落ちてくると下がる)が97%以上、という条件もお願いしました。船内の状況を考えるとPCR陽性者のSpO2を全例チェックすることの大変さは理解していましたが、受け入れ施設内では酸素投与を含めた医療処置ができない、ということでチェックしてもらうようお願いしました。最終的にPCR陽性の人が96名、その家族や付き添いでPCR陰性の人が32名の合計128名を受け入れしました。横浜からは自衛隊バスで隊列を組み、警察の先導とDMATおよびトイレ車が随行する形で、休憩を含め約6時間の移動です。

上記の条件で無症候の人を選択して搬送してもらっても、6時間の搬送中に症状が出現し、医療処置が必要との判断で医療機関に搬送した症例が13名いました。128名に対しては約10%ですが、PCR陽性者だけでみると13.5%になります。施設到着時点で、見た目だけで重症化したことが分かる症例はほんの一部で、多くの症例では呼吸数すらあてになりませんでした。「咳が多い」「歩けない」「何となくおかしい」で事前予測できた人もいますが、多くの方は到着時の体温、SpO2測定で鑑別しました。

中国から病像についての論文が出ていますが[注4、5、6]、国内で聞く情報からも、無症候・軽症のPCR陽性の方でも、胸部CTを撮像するとおおよそ4人に3人は肺炎像があるという情報があります。多くは両側に肺炎像を認めますが、これはタイミングにもよるかもしれません。多くの方が軽症や無症候でも肺胞に炎症をきたし、そのうち高熱やSpO2低下に至る人が一部存在する、と理解する方がいいかもしれません。岡崎で上記の無症候から搬送対象になった方の中には、もともと無症状だったものの、搬送の6時間のうちに軽度の胸痛が出現した人が何人かいます。CT像から考えるに肺炎の進展によって胸膜痛が出てくる可能性があります。

無症状・軽症から重症化するときは、スピードが早い印象です。初期にはほぼ無症状であるため、気づかないうちに病変が進行し、有症状になってから一気に進行するように見えるのかもしれません。PCR陽性の軽症者を診るときにはこの点に留意してください。

他の感染症との合併

既に報道にあるように、肺炎球菌抗原陽性で肺炎治療中の方が、後からCOVID-19であると分かった症例があります。一般にウイルスによる上気道感染に合併して細菌性肺炎を発症する、という点は日常的な注意と同じで、別の感染症が見つかったらCOVID-19が否定できるわけではないことに留意が必要です。それ以上に驚いたのは、A型インフルエンザの迅速検査が陽性で、同時にCOVID-19も陽性だった人がいることです。A型インフルエンザ感染で説明がつかないような肺炎像があるときには注意が必要です。

感染拡大期から蔓延期に向けて

無症候性感染者、軽症症例が多数いる以上、拡大期や蔓延期において、症状によってCOVID-19を鑑別するのは不可能と考えた方が良いでしょう。疫学的リンクがたどれない症例が出てきていることを考えると、接触歴だけでも鑑別はしきれません。結果的に疫学的リンクがたどれている人も、濃厚接触者に対する健康観察対象期間に見つかった症例ばかりでなく、発症後に後付けでリンクが分かった人も多数います。

「発熱等外来」を設けている医療機関もあるかと思います。もちろん医療機関受診の早い段階でのトリアージにより感染リスクが高い人をピックアップすることは、早期の隔離と診断という意味で必要なことだと思います。しかしそこでふるい分けられなかった人には感染の可能性が無い、ということではありません。「発熱」や「症状」だけで鑑別ができない以上、「発熱等外来」だけでなく、全ての待合スペースで適切な患者間の距離を確保する、定期的に換気を行うなどの対策と、病院に来院しなくとも良い人はできるだけ来院を避けられるようにする(電話による処方箋発行、再診間隔を長くとる)などの対策が必要になります。

残念ながらDP号で活動した救援者からも感染者が出ています。しかし、あれだけ不特定多数の救援者が船内に入りながら(検疫中に一貫して船内活動をしたのはごく一部で、短期間活動する人が多かったです)、感染した人数が少数であることを考えると、適切な感染防護策を施せば医療者への感染は防護できるはずです。強調すべきは接触予防策、適切な防護具の着脱(特にマスクの扱い)、手指衛生ではないでしょうか。これは専門家の意見として既に公表されているものです。

無症候性病原体保有者も感染力があることが分かっており、発症直後がもっともウイルス量が多い、との中国からの報告もありました。また中国からは医療者の感染の大多数は軽症患者から、とも報告されています。これからの拡大期・蔓延期に向けて、全国の医療機関で対応の準備が進んでいると思います。個人的な経験もふまえ、

・症状や病歴だけでは鑑別はできず、診察スペースを分けるだけでは対応はできないこと、狭い空間に長時間同席すると感染のリスクがある、ということから無症候性病原体保有者がいるということを前提に、外来の待ち時間・待合スペースについて換気・着座間隔などに工夫をする必要がある。

・COVID-19感染の疑いであるかどうかにかかわらず、愚直に感染防護と接触予防策を行うことで、医療者の感染リスクはかなり下げられると思います。

事前準備を行って、拡大期・蔓延期を安全に乗り切りましょう。

(文 山畑佳篤=京都府立医科大学救急医療学教室)

[注4]Tao Ai, Zhenlu Yang, Hongyan Hou, Chenao Zhan, Chong Chen, Wenzhi Lv, Qian Tao, Ziyong Sun, and Liming Xia.Correlation of Chest CT and RT-PCR Testing in Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) in China: A Report of 1014 Cases. Radiology 0 0:0

[注5]Guan, Wei-jie et al. Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. New England Journal of Medicine. February 28, 2020.

[注6]The Novel Coronavirus Pneumonia Emergency Response Epidemiology Team. The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) - China, 2020[J]. China CDC Weekly, 2020, 2(8): 113-22.

[日経メディカル2020年3月16日付記事を再構成]※情報は掲載当時のものです。

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