無難は変革を生まない リーダーは率先して逸脱せよ花王社長 沢田道隆氏(上)

「どうしても、従来の方法から逸脱していいものかどうか悩んだり、叱られることを恐れたりしてしまいます。社長がそこまで言っているのだから、極端なアイデアでもいいと安心してもらいたいのです。議論の幅を広げるために、あえて極端な提案をすることも重要です。極端なアイデアを下地に議論し、少しだけもともとのあり方に揺り戻しが起こることで、最適な結果に落ち着くと考えています」

――逸脱が重要だと考えるようになったきっかけは何ですか。

「入社して10年目くらいに素材開発研究を担当し、新しいマニキュアの開発に携わりました。通常のマニキュアはシンナーやニトロセルロースを用います。色を塗るために必要なのですが、どうしても爪が黄色くなったり傷んだりしてしまいます。そこで私に与えられた命題が全く新しい『水性マニキュア』の開発でした。水性なら爪は傷みませんが、手を洗うとすぐにはがれてしまう課題がありました。それまで先輩が数年取り組んだものの、思うような結果が出ていませんでした」

リーダーとしての原点は研究員時代にある(中央が沢田氏)

「私もしばらくは先輩が積み上げてきた研究結果から離れられませんでしたが、あえて直接は関係のない技術講演会に足を運んでヒントを探りました。ある壁紙用塗料の講演でのことです。壁紙用塗料は水やアクリル樹脂を使っていますが、塗った後も湿気に強く、はがれにくいことを知りました。一緒に行った後輩と帰りの電車で『これかもしれない』と話し合い、翌日すぐに実験を始めました。1年もしないうちに完成し、『AUBE(オーブ)』というブランドのマニキュアとして商品化できました。意外なところから発想は生まれるものです。既成概念やしがらみを取り払って考えることの重要性を学びました」

――自分自身はどのようなタイプのリーダーだと思いますか。

「グランドデザインを考える『道しるべ型』だと思います。デザイナーに近いですね。みんなの意見をまとめるよりも、自分のアイデアをまず示します。戦略の方向性を提示し、具現化するために何が必要か考えます。グランドデザインを描いていれば、想定外のことが起きてもそのデザインの中で修正できます」

環境変化に合わせて臨機応変に

「最近力を入れているESG(環境・社会問題・企業統治)も、12年の社長就任1年目に描いた経営デザインのイメージの枠に入っています。(環境に配慮した商品やサービスを求める)エシカル消費の流れの中で、ESGに軸足を置かないと会社が取り残されると思い、焦り始めたのが17年ごろのことです」

「それまでサステナビリティー(持続可能性)については、全社の組織的には第2階層にあたる部署の取り扱いでした。それを18年に社長直轄の第1階層に格上げしました。19年にはESG戦略を発表し、30年までに環境負荷を軽減できる包装容器を年間3億個普及させる目標を掲げています。まさに全速力で進めています。グランドデザインという経営のイメージを持った上で、環境変化に合わせて臨機応変に調整できていると思います」

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