いまは「おなじ」ものが価値にはならない時代です。よく箱ティッシュの事例をだすのですが、企業での講演の際、参加者に『どのブランドの箱ティッシュを使っていますか』と尋ねても、ほとんどの人は覚えていません。他との違いに乏しいコモディティーの商品は、ニーズはあっても簡単に他のブランドと取り替えられる、どれでもよいものになってしまいます。モノも情報も余っている今、むしろ大事なのは他とは交換できない「ちがい」なのです。

私はこれを「工場」のパラダイムから「アート」のパラダイムへの変化と呼んでいます。

拙著「ハウ・トゥ アート・シンキング」に書いた通り、工場では「おなじ」ものがつくられることが大事で、「ちがう」ものは不良品であり悪だったわけですが、アートの世界では他のアーティストと「ちがう」ものを生みだすことが価値で、「おなじ」ものをつくったら盗用であり悪です。

もちろん、「おなじ」ものが事業としてもうかることはあります。タピオカ人気に便乗してタピオカ店を始めればある程度はもうかります。ビジネスにおいて最も重要なのはタイミングだと思っていますが、「らしさ」のない追随型の事業は変化の早い今日、すぐに過当競争に陥ります。「おなじ」からはイノベーションは生まれませんし、すぐ陳腐化してしまいます。

工場からアートへ――。市場の飽和と成熟によって「おなじ」と「ちがい」の価値軸が180度変化し、「ちがい」を生むためにアート的な思考法が求められているのです。(染み出し型や後発参入型の新規事業もありますが、新規事業のパターンについてはまた別のところで)

ちがいの源泉=「自分」

本質的な「新規」とはまねができないこと、つまり「他社にはできない自社だけの価値」をつくることです。新規事業の失敗を繰り返すうち、私は「ユニークバリュー」こそ重要だと考えるようになりました。

そして起業後は、それを実践しつつ、また多くの企業の新規事業立ち上げの相談に乗る中で、ユニークバリューとは何か、思考を深めていきました。 そして最終的に、他とはちがうユニークバリューの源泉は、やはり「自分」である、それも、「いびつな自分」である、という結論に到達します。

先にみたように、「課題」や「合理性」をベースにすると、「おなじ」ものが生まれてしまいますが、他にはまねできない独特の「自分らしさ」こそが「ちがい」の源泉であり、これこそまさにアートのクリエーションに学ぶべきことなのです。

新規事業で失敗を繰り返しアート思考にたどり着いた

アートは「課題」から出発し「合理性」で共通の「正解」をつくる作業ではありません。それは「自分」を起点にした内からの衝動によって産み落とされる赤子のようなものといえるかもしれません。このように、『なぜ新規事業が上手く行かないのか』をつきつめて考え実験しているうち、アート研究をしていた頃の記憶につながったのでした。正解がなく、自分を起点にして新しい価値を生みだす――。そのようなアート的なあり方こそ今イノベーションに不足しているものだと確信し、それを「アート思考」というようになったのです。

次回は、「アート思考」という探求を始めた私がどのようなことをアートから学び、取り入れ、実践の中で「アート思考」をどのように進化させてきたかについて書いていきたいと思います。

<<(1)「課題解決」の発想を超えろ 「アート思考」に学ぶ

若宮和男
1998年、大学の建築学科を卒業、建築士として建築設計事務所に就職。2002年、東京大学に学士編入してアートを研究。NTTドコモやディー・エヌ・エー(DeNA)で新規事業の立ち上げを手がける。17年ユニックを創業。著書に「ハウ・トゥ アート・シンキング」(実業之日本社)

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