データだけでは計れない 挫折が教えた「アート思考」
アート×ビジネスで世の中をもっと面白く(2) uni'que代表 若宮和男
uni'que代表の若宮和男氏
前回「『課題解決』の発想を超えろ 『アート思考』に学ぶ」では、私自身が試行錯誤の末、たどり着いた「アート思考」の概略をご紹介しました。
実はここ1年くらいの間にアート思考や「アート×ビジネス」という言葉が急激に聞かれるようになっています。私自身もアート思考について発信し、トークイベントやビジネス界とアート界がよりオープンに対話する機会も増やしているのですが、それは「アート思考をもっと盛り上げたい」からではなく、むしろ逆で、アート思考が安易に「消費」されてしまうことへの危惧があるからです。
アート思考は、いまだ明確な定義はなく、メソッドも確立していません。ビジネス界で「ロジカル思考」や「デザイン思考」の限界が見えてきたなか、新しい思考法として同時多発的にさまざまな言説や手法が「アート思考」という名前で語られています。同時多発的に起こっていることは時代に求められている証左だともいえますが、中身が曖昧なままに「新しい救世主」として急激にもてはやされてしまうと、一過的なものとして消費され飽きられてしまう懸念があります。もしそうなると、それは翻ってアートそのものの価値をすらも毀損(きそん)してしまいかねません。
「新しい価値」を模索し続けた日々
そもそもなぜ、今アート思考が求められているのでしょうか。
ここで少し、私自身のキャリアについてお話しさせてください。
私自身がアート思考という考えをもつようになったのは、何かで勉強したからとかいうのではなく、自分が長らく新規事業で血を吐くような失敗をしてきた結果でした。
前回書いた通り、私はもともと建築設計からアートの研究を経て、IT業界に移り新規事業の立ち上げを多く手がけてきました。実はもともとは理系でロジカル主義の人間です。
NTTドコモに在籍していた頃、モバイル端末を医療や健康管理に役立てるモバイルヘルスケア事業の立ち上げを担当しました。当時「モバイルヘルスケア」はちょっとしたバズワード(はやり言葉)となっていて、グーグルなど OS(基本ソフト)を供給する企業から携帯電話3キャリア、富士通やパナソニックといったメーカーまでが競ってこの領域を狙っていました。