価値観合う就職先は… 自分の失敗パターン分析で探す
(5)自己分析ワーク編
元お笑い芸人で、現在は人材研修などのコンサルティングを手掛ける中北朋宏さんが講師役となって、就活生に面接の極意をフィードバックする連載「面接道場」。今回は、自己分析ワーク編。どのような社会人になりたいのか、将来の自己像を描くために、あえて過去を詳細に振り返るワークショップを実施した。
参加者は、明治大学3年の男子学生のDさん。すでにIT企業から内々定を得ているが、この企業に決めるか、まだほかを見るかで迷っているという。Dさんには事前課題で自分のこれまでの人生を振り返る「モチベーション曲線」を書いてもらった。
「モチベーション曲線」から価値観を捉え直す
中北 なぜこういうグラフを書いてもらったのか、その意図をまずお伝えしておきます。私の主な仕事は、お笑い芸人の転職支援です。そのときに使うのがこのモチベーション曲線です。やりたいことがわからなくても、なんとか見つけないといけない。そういうときに役立ちます。モチベーションの上下って何か理由があるはずなんです。きょうは自分の価値観を明確にして、どういう場に行けば自分が楽しく働けるんだろうかということを言語化していただくような場になればと思います。
早速始めましょうか。Dさんは小さい頃、どんな子供でしたか?
D 幼稚園で一番記憶にあるのが、卒園式の日に落書きをしたことですね。自分の名前を残したくて。チョークで屋上に落書きして、園長先生に怒られました。
中北 変わってるね(笑)。
D たぶん人と同じことをするのが好きじゃなくて。
中北 いいね。なんで好きじゃないの。
D 人と同じことをしていたら同じ結果しか得られないので。
中北 小学校で結構下がってますね。何があったんですか。
D 小4のときに学級崩壊したんです。転校生がいて、その子がわりと変わったタイプで、いじめの標的になるような感じだったのですが、先生がひいきしているって皆が言い出して学級崩壊したんです。
中北 なんでそれでモチベーション下がったの? 学級崩壊と自分って関係ないじゃないですか。
D 自分は学級崩壊させたかったわけでもなかったのに、まわりに流されつつ同調してしまったのが嫌だったんだと思います。自分の意思で動いていないなと。このままでいいのかなって思って小4で塾に入りました。
中北 学級崩壊と塾、関係ないやん。
D 学校の仲間と一緒にいるのが嫌だったので。
中北 学校のクラスの何が嫌だったの? 言葉を選ばずに。
D うーん、マイナスにしかならないし、意味がないというか……。リーダー格の子の人柄もあまり好きじゃありませんでした。
中北 ここ重要です。まさに価値観なんです。なんで重要かわかる? 企業に入ると必ずDさんが小4で経験したような場面が来るんです。こういうところにいると、自分は必ずモチベーションが下がるという感覚を知っておくのは重要です。例えば大手に入社し、上司の力が異常に強くて手足のように動かされる部署だった場合、辞めたくなるじゃないですか。ということは、そういう体質の企業には入るべきじゃないとかが分かります。
自分の「失敗パターン」をつかむ
中北 先に進めていきましょう。塾に入った後はどうなったんですか。
D 塾はとても楽しかったのですが、そこでできた友だちとゲーセンに行ったり、公園で遊んだりしていて。案の定、中学受験は失敗しました。
中北 中学受験の失敗で、なぜモチベーションが下がったんですか。
D 学校では受験勉強を頑張っていると思われていたのに、結果が出なかったことがダサいというふうに思って。塾に通ったのに結局何もできなかったなと。
中北 中学でも下がってますね。どんなことがあったんですか。
D 小学校からサッカーをやっていたのでサッカー部に入りたかったのですが、全国大会に出るような強豪校だったので入部には選抜試験があって、それに落ちてしまったんです。勉強もサッカーもなくなってしまって、そのときが一番つらい時期でした。
中北 一番つらかったのはどうして?
D 受験が終わって、さあ次はサッカーを頑張るぞって思ったのに、それをやることさえできないということがつらかったです。授業態度も最悪でした。
中北 なんで最悪だったの。
D 頑張ってもどうせ結果が出ないし、と腐っていました。
中北 いいね。挫折したんだ。その後、好転したのは何があったんですか。
D 担任の先生に文化祭の企画のリーダーをやってと言われて、最初は嫌だったんですけど、人の上に立つことは嫌いじゃなかったので。やり始めるとクラスをまとめることが楽しくなりすぎて、毎日クラスメートと遊んでいたので、高校進学のときにまた試験に失敗して下のクラスになりました。高校では、運動で結果を残したいなという思いが強くなって、マラソンを頑張りました。
中北 それで毎日トレーニングして、大学受験も失敗したと。受験、毎回失敗するなあ。
D 高校生活と大学受験をてんびんにかけたときに、高校生活は一生に一度しかないから楽しむということが大切なんじゃないかという結論に至って、遊んでいました。
中北 大学入学後に、ぐんと上がってますね。
D 1年生のときは普通にバイトやサークルに行く日々だったのですが、そろそろこの生活を続けるのはヤバいなという危機感を持ち始めたのが、孫正義さんの講演を聞いたときです。テクノロジーで世界は変わっていくんだと実感して、自分も変わらなきゃ、と思ったんです。
中北 毎回、同じパターンで失敗しているってわかる? 君は基本的に一つのことに没頭するんだよ。それは才能でもあるんだけどね。没頭するとほかのことが手につかなくなって、全てを投げ出すっていう傾向がある。それは明確に認識しといたほうがいい。だからこそちゃんと正しい方向性を導き出した方がいいです。ここで、もう一つの事前課題を見ていきたいと思います。5年後のビジョンを書いてもらいました。
自分にとって魅力的なゴールを設定する
中北 これを見てもよくわからないのですが、結局どうなりたいんですか。
D 最終的な夢はあって、温泉経営です。
中北 温泉経営? なんで?
D 温泉が好きだからです。
中北 めっちゃいいやん。
D 大企業で修業して、40歳までに独立したいなと思っています。でも5年後というのはあまり考えたことがなくて……。
中北 長期的にやりたいことが明確なのは珍しいパターンだと思いますが、なおさらそこに至るまでの過程での目標を設定した方がいいです。じゃないとまたブレて、楽しいと思うだけの方向へ行くという、また同じパターンを繰り返すよ。これまではそのしわ寄せは受験だけど、これはヤバいんじゃないかって50歳で気付く、みたいなことがあり得るよ。温泉経営して、どうなりたいの?
D 地域の活性化をして、その地域を回復したのは自分だ、と言えるようになりたいです。
中北 IT大手に内定しているそうですが、それなら地方創生のコンサルとかに入ればいいんじゃないの。
D そういう会社あるんですか? 就活全然していないのであまり知らなくて……。
中北 内定先を否定するつもりはないけど、色々見に行って受けたらいいのに。大学生活は一度しかないから遊びたいかもしれへんけど、目星を付けるのが早すぎやねん。
今の世の中、やりたいことをやろうというメッセージが多いですが、「あるべき姿」がない人が多いんです。そこを設定せずになんとなく現状に不満があって行動し続けているので、だいたいのパターンは入社4~5年目に、自分が成長しているかわからないと悩んで、友人の会社がうらやましくなったりして、大した知識量もないのにもう転職した方がいいのかなと思って、なんとなく転職する。
でも結局、起業もビジネスも、やりたいことをやり続ける前に、実力を付けるためにめっちゃ努力せなあかん時期があるんです。そこで方向性がブレないために、繰り返しですが目標の言語化が重要です。
D 目標はどうつくったらいいのでしょうか。働いてからのイメージがつかめなくて。
中北 働いた経験のない学生だと具体的な目標は難しいと思うので、何をするかよりも、どうありたいかというくらいでいいです。こういう価値観で生きていたいという感覚があるじゃないですか。「スマートゴール」という考え方があって、そのなかで私が重要だと思うのが、ゴールが自分にとって魅力であることです。
そうすると、モチベーション曲線で自分を振り返る意味も分かってきますね。例えば自分のモチベーションは仲間の影響が大きいから、信頼できる仲間に囲まれていたいとか、そういう目標が出てくるかもしれない。世界を変えるんだみたいな高尚なものじゃなくていい。自分にとって魅力的なゴールを、これから言語化してみてください。
(文・構成 安田亜紀代)
浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年間活動。トリオを解散後、人事系コンサルティング会社に入社し、内定者育成から管理職育成まで幅広くソリューション企画提案に携わる。その後、インバウンド系事業のスタートアップにて人事責任者となり、制度設計や採用などを担当。2018年に人材研修コンサルティングなどを手掛ける株式会社 俺を設立し、社長就任。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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