GOETHE

2020/2/16

天然の高機能素材ウールの心地よさ

―― ティム氏がメリノウールに着目した理由は?

彼は人口約500万人に対し、羊が3000万頭もいるニュージーランド出身。メリノウールの素晴らしさを熟知していました。そして、なぜこれほど素晴らしい素材が、いままでスニーカーに使われてこなかったのかと、疑問を抱いていたそうです。

―― そもそもメリノウールはスニーカーに向いている素材なのでしょうか?

ウールのなかでもとくに繊維が細いメリノウールは、素晴らしい特性を数多く備えています。カシミアのような柔軟さや、寒いときは温かく、暑いときは涼しい温度調整機能。精製過程の環境負荷も、コットンに比べるとかなり少ない。またオールバーズのスニーカーは素足で履いても臭いが気にならないのですが、それは抗菌防臭性や通気性に優れているからです。家庭用洗濯機で丸洗いできるので、清潔感も保てます。こうしたウールの特性をスニーカーで発揮させるのは、けっして簡単ではありませんでした。そこでウールを知り尽くしたイタリアの服地メーカー、レダ社に協力を仰ぎ、スニーカー用のウール生地をゼロから共同開発してもらったのです。通常はスーツ用の生地を作っている彼らにとっても、これは初めての経験でチャレンジングな仕事だったようですけどね。

―― ジョーイCEOはバイオテクノロジーの専門家でもあるそうですが、その知識はオールバーズの製品開発に役立っているでしょうか?

私は前職で珪藻類由来の素材開発を手掛けていましたが、そこでの経験と知識は大いに役立っています。例えばスニーカーのインソールに用いているポリウレタンは、石油ではなく植物性のひまし油から作られています。また「スウィートフォーム」と名付けたアウトソールは、サトウキビを原料にバイオテクノロジーを駆使して生産しています。こうした素材開発は、すべて私の知識と経験に基づくものです。その一方でティムにはデザイン面を任せており、ふたりで役割を分担しています。

世界各国のオールバーズのストアには、それぞれに店舗限定カラーの交換用シューレースが用意されている。右から北斎の浮世絵に着想した“神奈川ブルー”、近隣の明治神宮にちなむ“さくらピンク”、“鳥居レッド”と、ネーミングがユニークだ。

―― ティム氏がデザインするスニーカーに、ロゴや装飾性がないのはなぜでしょうか?

私たちのスニーカーは、インダストリアル的なアプローチによってデザインしており、ファッション的なコンセプトありきではないためです。そこには本当に必要な要素だけを形にするという、日本のプロダクトに見られる美学や審美性からの影響もあります。そしてなにより機能美を大切にしており、ブランドロゴや装飾は不要なのです。

―― 多様な素材を使うスニーカーはリサイクルが難しく、環境負荷が大きいと言われますが、そのことをどう思われますか?

多くのスニーカーは石油由来素材やレザーを使っています。そしてそれらは環境負荷が大きいと分かっているのに、変えようとしないブランドが多い。前職のときも感じましたが、世の中の変化はとても遅いのです。それは残念であり、悲しいことでもありますね。ただ、私たちのスニーカーは石油由来の素材を一切使わず、リサイクルできたり、土に還る素材もある。そんな私たちのスニーカーの成功が、他のブランドによい影響を与えるのではないかと思っています。

“常熱体質”で導く成功とより良き環境

―― グーグル共同創業者ラリー・ペイジ氏や俳優のレオナルド・ディカプリオが愛用するなど、成功の発端となったシリコンバレーやハリウッドで受け入れられた要因はなんでしょうか?

ご存知のようにシリコンバレーはテック産業のメッカですが、エンターテインメントやデザイン、ファッションなど、幅広い分野の人々が集う地域です。彼らに共通しているのは、ビジネススタイルがカジュアルであること。そしてビジネスシーンにもディナーにもなじむ、シンプルなデザインの服を求めていることです。そこにロゴや装飾は不要であり、彼らのそうした嗜好やライフスタイルに、私たちのスニーカーが合致したのです。もちろんサステイナブルな企業姿勢も、口コミで広がる要因になったと思います。

―― 創業からわずか3年で原宿の一等地に出店するのは素晴らしいことです。

とても誇らしく感じています。告白すると、ずっと日本でもビジネスを始めたいと思っていたのですが、日本のプロダクトの品質やこだわりに対する敬意がありすぎて、いわば畏れおおかったのです(笑)。私たちの代表作である「ウール ランナー」は創業時から作り続けていますが、変わらないように見えて、じつは30回ほど改良を加えています。ファッションアイテムには考えられないかもしれませんが、私たちにとってはソフトウェアのような感覚であり、常に細部のアップデイトを重ねているのです。そうした進化により、ようやく日本の方々にも認めていただける品質とこだわりを実現できたのではないかと思っています。

―― 今後の予定は?

日本の小売は、オンラインの比率が10%なら成功とされるとのこと。私たちの売り上げは世界に実店舗が15店ありますが、大部分がオンラインです。まず日本でも、実店舗を増やしつつ50%に引き揚げたいですね。それと新素材を開発し、スニーカー以外のアイテムも増やしたい。まずはソックスを販売しましたが、これは序の口です。またこれからも、自然由来やリサイクル素材にこだわっていきたいと思っています。自然はこの地球上で何十億年という“実績”があるのに対し、石油製品はたかだか100年ちょっとであり、桁が違う。私はそんな自然を信頼しており、その恩恵はまだまだあると確信しています。

―― 最後に、あなたにとって仕事とは?

私にとって仕事とは、社会に貢献する舞台であり、生産的でポジティブなもの。私はこの世に来たときより少しでも良い環境を去るときに遺したいと、常々思っているのですが、その実現こそが私のできる社会貢献なのです。また、仕事は全身全霊で情熱を注げる対象でもあります。いま弊社には約500人の社員がいますが、彼らにもそれぞれの情熱を注げるものを見つけてほしいと言っています。オールバーズがその対象になったら、これほど嬉しいことはないですね。

ジョーイ・ズウィリンジャー CEO
米国ペンシルバニア大学ウォートン校 にてMBA、カリフォルニア大学バークレー校にて工学の学士を取得後に、コンサルティング会社や投資銀行の投資部門に勤務。その後バイオテック企業のテッラヴィア社にて、再生可能資源についてのビジネスを6年間リードし、珪藻類由来素材の開発・販売を手掛ける。2016年よりティム・ブラウン氏とともにオールバーズを創業。現職と並行し、NPOの役員なども務めている。

オールバーズ原宿店
住所:東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森ビル1階
営業時間:11:00~20:00
休み:不定休
help@allbirds.jp

※表示価格は税抜きです。

Text= 竹石安宏  Photograph=岡村昌宏

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[ウェブサイト『GOETHE』2020年1月22日公開の記事を再構成]

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