60歳で「ぼちぼち」したくない作家、石田衣良さん

NIKKEIプラス1

作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。石田衣良のブックサロン「世界はフィクションでできている」主催(https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html)。
作家。東京都生まれ。2003年「4TEENフォーティーン」で直木賞。石田衣良のブックサロン「世界はフィクションでできている」主催(https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html)。

今年で60歳になります。まだまだ枯れずに仕事もプライベートも頑張ろうと思っていますが、先輩や知人から「これから先はぼちぼちとやっていけばいい」とよく言われます。納得がいかない私は変でしょうか。(東京都・50代・男性)

あなたも同じお悩みを抱えているんですね、ご同輩。お気もちはお察しします。ぼくもこの3月末で、ちょうど60歳を迎えます。干支(えと)もひと回りして還暦だし、サラリーマンなら定年退職という節目の年齢になるのです。

あなたの場合、周囲から「これから先はぼちぼち」と言われ納得がいかないということですが、平均余命は四半世紀近く残っています。いきなり新生活の出足を抑えられても、腑(ふ)に落ちないのは当たり前。身体もまだ若いし、頭の回転もさして落ちていない。60歳定年が長寿の時代にそぐわなくなっているのです。

かくいうぼくもこの年で新しいチャレンジにとり組んでいます。1月から動画配信で自分の番組を始めたのです。毎週木曜の夜、ニコニコ動画でオンエアする「大人の放課後ラジオ」です。ネットの世界では紙の本の存在感はごくわずか。もっともっと、いい本を広く紹介したい。テレビではなかなか実現できなかった本の番組を、自分でもつことにしたのです。

2時間近い収録を若い友人たちと一緒に語り切るのは、毎回なかなかハードですが、60代のライフワークにしようとがんばっています。無料版もユーチューブにあがっているので、なにかの作業のBGM代わりにどうぞ。直近の直木賞を予想して、見事に「熱源」を的中させましたよ。

さて、ぼくの近況報告はこれくらいにして、お悩みの続きにいきましょう。定年後の仕事で大切なのは「大きく当てようとしない」ことだと、ぼくは考えています。投資の世界ではがっぽりと稼ごうと欲を出すと、大きな損失につながることが多いからです。

あなたがなにか新しいビジネスに進出するとしても、最初の投資額は控えめにして、小さくコツコツと稼ぐ手堅い回収を心がけてください。あなたが得る退職金は、これまでの数十年の勤労のご褒美で、次にこれほどまとまった資産を得ることは、普通の会社員ではまずあり得ません。

命綱ならぬ「命金」はしっかりと守ったうえで、生涯をかけて培ったノウハウ、センス、人間関係を生かし、新たな仕事に挑戦する。その際、小さくても社会還元ができたりすると、なおいいですね。ビジネスもプライベートも新たな黄金期の始まりです。60代を楽しみましょう。ぼくものんびりがんばります。

[NIKKEIプラス1 2020年2月1日付]

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