リクルートは世界で成功するか ハーバードの視点ハーバードビジネススクール教授 サンドラ・サッチャー氏(下)

佐藤 リクルートの海外M&A(買収・合併)は、事業領域ごとに「2段階アプローチ」をとっています。第1段階で、少額出資をして、対象企業との相性やその事業領域における勝ち筋を見極め、第2段階でその実証結果をもとに大型投資を実施する方式です。どのような指標を重視して買収対象企業を決めているのでしょうか。

サッチャー リクルートは、外国企業を買収する際、時間をかけてその企業のビジネスの本質、企業文化、「買収したらリクルートとこの会社の双方にとってメリットがあるか」などを精査します。

リクルートは、単に「リクルートに似たサービスを提供している会社」ではなく、「リクルートと基本理念を共有してくれる会社」を探しているのです

佐藤 買収の可否を決めるのに、売り上げ、利益といった数字よりも、ミッション、ビジョン、企業文化などが合うかどうかを優先しているということでしょうか。

ダイエー傘下で学んだ買収の機微

サッチャー 利益率が高くて、成長が見込める会社であっても、リクルートのミッション、ビジョン、文化に合わなければ、買収しないと思います。ところが買収後は数字が重要な指標となります。買収した企業には現実的な数値目標を提示し、それを達成することをコミットしてもらいます。業績が良ければ干渉しない、業績が悪ければリクルートが入って立て直す、という方針です。

これはリクルートがダイエー傘下時代に学んだことです。90年代前半のバブル崩壊で、1兆4000億円もの有利子負債を抱えていたリクルートは、現実的な数値目標をコツコツと達成していくことで財務を改善させ、およそ10年で借金を返済してしまいます。この経験が現在のビジネスや買収戦略に生かされているのです。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。日本ユニシス社外取締役。

佐藤 買収された企業の中には、欧米企業も狙っていた優良企業もたくさんあります。これらの企業があえて売却先としてリクルートを選んだ理由は何でしょうか。

サッチャー 同じ質問を買収された企業のトップに直接聞いたところ、全員が「自律性の尊重」を挙げました。「リクルートは私たちの会社の組織能力や潜在能力を信じてくれていて、数値目標を達成している限り自由に経営させてくれる」と。他の売却先候補は、そのようなコミットメントをしてくれなかったそうです。

さらに「リクルートの持つ知識や技術を学びたい」という経営者もいました。リクルートが買収した企業の1つ、トリートウェル(Treatwell=ヨーロッパのオンライン美容予約サービス会社)の創業者は、「リクルートから学ぶべきことがたくさんある。テクノロジーと組織能力の観点から見ても、リクルートのオンライン美容予約サービスは我々よりもはるかに進んでいる」と言っていました。

自立性尊重とナレッジ共有との難しいバランス

佐藤 外国企業に対しては数値目標を達成している限り、経営には関与しない、となると、外国においてリクルートは投資家に徹するということでしょうか。

サッチャー リクルートの目標は2020年までに人材領域で、30年までに人材・販促領域で世界ナンバーワンになることです。投資家として成功することをめざしているわけではありません。

佐藤 そうなると、グループ企業の間でのシナジーの創出やナレッジ(知識・知見・情報等)の共有などを行っていく必要がありますね。買収した外国企業とリクルートの間は、どのように影響しあっているのでしょうか。

サッチャー 買収した企業の中には、リクルートのイノベーションコンテストや、人事評価プロセスなどを導入している企業もありますが、それほど積極的にシナジーやナレッジの共有を追求しているわけでありません。

私たちがアメリカのインディード(Indeed)を訪問した際、事業開発部門の役員が「リクルートの持つナレッジからもっと学びたいのだが、どのようにアクセスしたらいいかわからない。リクルートはインディードの経営はインディードにまかせるべきだと考えているため、お互いのナレッジを共有する機会があまりない」と言っていました。

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