マスクは1日20枚 絶対に休めない医師の風邪対策
『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』著者に聞く

忙しい日々を送っていると、体調管理がおろそかになり、休暇になったとたんに「バタンキュー」とばかりに寝込んでしまう。そんな経験はないでしょうか。時間がなくても、十分な休養とバランスの良い食事をとり、健康でいるのが理想ですが、現実にはなかなか難しいもの。そこで、『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP)の著者である、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんに、ハードな毎日を送りながらも、いつでもパフォーマンスを発揮できる状態にいるコツについて聞きました。
◇ ◇ ◇
毎日、膨大な風邪患者を診察しても風邪をひかない理由
――大谷さんのクリニックは、東京・池袋駅のほど近く、繁華街のど真ん中。しかも専門は呼吸器内科ですから、風邪をひいた患者さんがたくさん訪れるはず。ご自身はどのように風邪予防しているのでしょうか。
大谷 以前は飛び込みの患者さんも多く、22時を過ぎても診察が終わらないことがよくありました。現在は予約制にしたのですが、それでも20時半を過ぎてしまうことがあります。それだけ多くの患者さんに向き合っても体調を崩さずにいられるのは、一言でいえば、「科学的根拠(エビデンス)」に裏付けられた体調管理を行っているからです。

――最近は、さまざまな分野で、エビデンスの重要性が言われるようになってきました。具体的には、どのようなことをやっているのでしょうか?
大谷 風邪はありふれた病気ですが、油断せず、基本的な予防法を徹底して、細かいリスクをつぶしていくことが大切です。例えば、マスク。エーザイの調査では、7割もの人がマスクを正しく使えていませんでした。マスクの誤った使い方の例としては、「ウイルスが付着したマスクのフィルター部分を触ってしまっている」が43%、「マスクを外した後、手洗いできていない」が54%だったのです。

マスクを付け外しするときは、ゴムひもの部分だけを持って行わなければなりません。これができていない方が意外と多いのです。また、マスクは使い捨てが基本。それなのに、先ほどの調査では、「2日以上同じマスクを使用」と答えた人が17%いました。
――えっ、同じマスクを次の日も使うのはダメですか?
大谷 衛生的ではありませんよね。アメリカのミネソタ大学の研究では、インフルエンザウイルスが、衣服や紙、繊維の上で8時間ほどは生存が可能だということがわかりました。マスクについたウイルスが次の日も生きている可能性は高いのです(J Infectious Dis. 1982;146:47-51.)。
私は仕事柄、診察のある日は20枚ほどマスクを使います。一方、診察がない日でも、4枚以上は使っています。医療従事者でない方は、1日に4~5枚程度を目安にするといいと思います。
指先にウイルスをつけないように注意
――これからはマスクを使い捨てるようにします。ほかに気を付けたほうがいいことはありますか。
大谷 風邪やインフルエンザでは、「飛沫感染」や「接触感染」を防ぐことが重要です。飛沫感染は、くしゃみやせきで排出された飛沫中のウイルスを吸い込むことで起きますので、マスクで防げます。接触感染では、ウイルスがついた指で自分の鼻や口、目などを触ってしまうことで起きます。ですから、まずは指先にウイルスをつけないようにしましょう。
――マスクはゴムひもの部分しか持たないようにするのもそのためですね。
大谷 そうです。先ほどのミネソタ大学の研究では、金属やプラスチックなど、表面が滑らかなところについたインフルエンザウイルスは、24~48時間は生存が可能だということがわかりました。電車やバスのつり革、エレベーターのボタン、ドアノブ、階段の手すり、オフィスの電話など、表面がつるつるしていて不特定多数の人が触れるものには注意したほうがいいでしょう。


私は、エレベーターのボタンを押すときは、指を曲げて第二関節の部分で押しています。しかも、エレベーターの真ん中のほうは多くの人が押していてウイルスが付着している確率が高いので、端のほうを押すようにしています。ドアノブも、手のひらやひじをつかって回します。こうすれば、指先にウイルスをつけてしまう可能性はかなり低くなるでしょう。
――徹底していますね。これならすぐに実践できそうです。
大谷 まだありますよ。表面がつるつるしていて不特定多数の人が触るものといえば、硬貨です。買い物をしたときにもらうおつりの硬貨にウイルスが付着しているかもしれないので、キャッシュレスで決済したほうが風邪予防になります。また、役所や銀行で書類を書くときに、備え付けのボールペンを使うのも心配ですから、自分で「マイペン」を持ち歩くといいでしょう。
食事は時間がなくても栄養のあるものを
――なるほど、風邪予防と一言でいっても、そこまでやるものなのですね。体調管理といえば、睡眠や食事もありますが、そのあたりはいかがでしょうか。
大谷 私は、どんなに忙しくても6時間は寝るようにしています。アメリカのカリフォルニア大学の研究データによると、睡眠時間が6時間未満だと風邪をひくリスクが4.2倍となり、5時間を切ると4.5倍になってしまうそうです(Sleep. 2015 Sep 1;38(9):1353-9.)。
また、時間がなくても朝食を食べたほうがいい理由があります。朝食を抜くと死亡リスクが1.3倍に上がるのです。これは、鳥取大学の横山弥枝先生の研究で、朝食抜きはあらゆる生活習慣病に関係するうえに、がん、循環器疾患の死亡リスクにも影響を与えていたのです(Yonago Acta Med. 2016;59:55-60.)。

ただ、朝は時間がないのが常ですから、手軽に栄養がとれるように、ヨーグルトにリンゴとバナナ、えごま油、ハチミツを混ぜたものが私の定番メニューです。それに加え、ハチミツ入りのコーヒーを飲んでいます。
リンゴは皮に含まれるポリフェノールによって肺の機能が若く保たれ、血管にもいい効果が期待できます(Thorax. 2017 Jun;72(6):500-509.)。ハチミツは、抗酸化作用があり、ビタミン、ミネラルが多く、せき止めの効果も期待できます(Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-6.)。コーヒーにハチミツを入れると、やはりせきに効くという研究もあります(Prim Care Respir J. 2013 Sep;22(3):325-30.)。
――すべてにエビデンスがあるのですね。これなら時間がないときでも、手早く必要な栄養をとれそうです。
大谷 忙しいと、コンビニで買ったおにぎりやパン、それと野菜ジュースで食事を済ませてしまう方もいるでしょう。それではカロリーは足りていても、栄養が偏ってしまい、体調不良に陥りやすい体になってしまいます。時間がなくてもバランスの良い食事を心がけ、特に、たんぱく質は3食必ずとるようにしましょう。
――心がけます!
(聞き手:日経BP ライフメディア局 竹内靖朗 写真:菊池くらげ イラスト:堀江篤史)
池袋大谷クリニック院長。2005年に東京医科歯科大学呼吸器内科医局長に就任。米国ミシガン大学に留学などを経て、09年に池袋大谷クリニックを開院。全国屈指の呼吸器内科の患者数を誇るクリニックに。呼吸器内科のスペシャリストとして「あさイチ」「林修の今でしょ! 講座」「名医のTHE太鼓判! 」など多くのTV番組に出演。著書も多数。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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