風邪はありふれた病気だが、「汗をかくと治る」「抗生物質で治る」など、間違った認識を持っている人も少なくない。そこで風邪に詳しい総合診療医・感染症医で北海道科学大学薬学部客員教授の岸田直樹さんに、誰もが知っておくべき風邪に関する正しい知識を3回にわたって解説してもらった。最終回は「エビデンス(科学的根拠)のある風邪の予防法」だ。
岸田さんによると、風邪とは「自然に良くなる上気道のウイルス感染症」。200種類以上もある風邪のウイルスを殺す薬は存在しないので、健康な成人の場合、本当の風邪なら医療機関を受診する必要はなく、数日寝ていれば自然に治ることが多い(風邪の詳細については前々回記事「本物の風邪は受診の必要なし まず3症状をチェック」を、受診したほうがいい主な症状については、前回記事「一見『風邪』だが実はちがう 受診すべき6つの症状」をご覧ください)。
とはいえ、できるだけ風邪はひきたくない。多忙なビジネスパーソンであれば、なおさらだろう。のんびり休んでいる時間はないし、かといって無理に仕事をしても、風邪で体調が悪ければいつも通りのパフォーマンスを発揮できず、ミスだって多くなる。
要は風邪をひかなければいいのだ。では、確実な風邪の予防法とは何だろう?
最も効果的な予防法は「手洗い」

「100%風邪をひかない方法はありませんが、エビデンスがあって最も効果的な風邪の予防法は『手洗い』です」と岸田さんは明言する。
例えば、手洗いをはじめとする手指衛生改善策の病気予防効果を調べた30の研究を分析した論文によると、手指の衛生改善策によって、風邪など呼吸器系疾患の発症率は、それをしない場合に比べ21%減るという。[注1]。
「風邪のウイルスはドアノブや手すり、机、スマホなど、物を介して手につくことが多く、一方で、人間は5分に1回くらいの頻度で無意識に顔を触るといわれています。それで手についたウイルスが口や鼻などから体内に侵入してしまうわけです」(岸田さん)
1日の中で、どのタイミングで手を洗うべきなのだろうか。
「物を触る前や触った後など、できるだけこまめに洗うのが理想ですが、毎日の生活の中で徹底するのは難しいかもしれません。せめて、帰宅直後と食事の前は洗うようにしてください。石けんを使って洗うのが基本ですが、手洗いの代わりに速乾性のアルコール手指消毒液を使ってもいいでしょう」(岸田さん)
当然、洗い残しがあっては意味がない。洗い残しが多いのは「爪の先」「指の間」「親指」「手首」など。そういった部分ももらさず、しっかりと洗おう。正しい手の洗い方を知りたい方は、「例えばYouTubeで『あわあわ手あらいのうた』という動画を検索してみてください。子ども向けですが、手洗いのポイントがよく分かります」と岸田さんはアドバイスする。
うがいは「ただの水」のほうがいい
サプリメントでは、ビタミンCに風邪の予防効果があるとよくいわれる。しかし残念ながら、第1回「本物の風邪は受診の必要なし まず3症状をチェック」でも触れたように「まだ十分に効果が証明されているわけではありません」と岸田さんは言う。確かに「効果があった」という研究もあるのだが、逆に「効果がなかった」という研究も多く、いまだに明確なエビデンスは出ていないのが実情だ。
「風邪の予防法として、最もエビデンスが強いのが『手洗い』です。その次に来るのが『うがい』、次が『マスク』の順で、これが風邪予防の3点セットといえます」(岸田さん)
[注1] Aiello AE,et al.Am J Public Health. 2008;98(8):1372-1381.