「お荷物」部下の再生術 世代の差を知り本音を見抜く『イマドキ部下のトリセツ』 麻野進氏

苦労せずに採用された世代の弱み

世の中の仕組みを早い段階で教えるのも、自らキャリア設計を考えるきっかけになる。人手不足を背景に割と苦労せず採用された世代は、今の状況がずっと続き、転職マーケットでも「売り手市場」で有利に立ち回れると考えがちだ。しかし年齢が上がっていけば、相応のスキルや経験を備えていないと報酬が上がらない。転職市場でも同様だ。外国人材の獲得に有力企業が動き、ロボットや人工知能(AI)を活用した省力化も加速する。「入社当時のまま大した成長もしなければ、30代で転職を試みても望み通りの待遇・評価を得られる期待は低い。そのリスクに気づかせて、今の職場での真剣な取り組みが必要だと感じてもらうのは、本人のキャリア設計にもプラスのはず」(麻野氏)

働き手の意識変化がドラスチックに起きていることを管理職は理解する必要があると、麻野氏は迫る。いわゆる「マズローの欲求5段階説」では、最もレベルの低い「生命を維持したい」という欲求から始まって、安全、所属、承認などの段階をへて、最も高い「自己実現」の欲求に至ると説明されてきた。しかし現代のゆとり・さとり世代は「途中の階層を飛ばして、生存から自己実現へと、直結してしまう傾向がある」と、麻野氏は分析する。会社組織では従来、報酬や肩書のアップという格好で様々な欲求をかなえ、働き手の労働意欲を喚起してきた。しかし「趣味のイベントに参加できる程度の収入があれば、結婚も昇進もいらない」と考える人たちには、この5段階説に準拠した仕組みは説得力を持たない。「働き手との向き合い方を根本的に変えるべき時期を迎えた」と、麻野氏は変革を促す。

人事にも納得感が求められる時代

この過渡期にあって、管理職に求められるのは「部下の本音を見抜く眼力」だと、麻野氏はいう。いくら欲求の階層が少ないからといっても「誰からも評価されない」「誰にも貢献しない」「誰ともつながらない」といった世捨て人のような生き方を望む人ばかりではないだろう。「幸せ」の定義は人それぞれだが、そのオンリーワンの意義づけに近づければ本人の仕事マインドが上向く可能性はある。上司が部下の本音に気づくには「親身なまなざしで接して、徐々にでも自己開示を引き出すしかない」。個別対応を心掛けて、個々の人生観やストレス耐性などを見極めていくという「地道で丁寧な向き合い方が欠かせない」(麻野氏)

人事制度の設計・運用があいまいだったことも、比較的若い働き手には不満の種となりやすい。働いた先に何が待っているのか、自分たちはどう評価されるのかなどについて企業側が必ずしも分かりやすい説明を与えてこなかったきらいもある。「今の働き手はエビデンス(証拠)に基づく納得感を求める傾向がある。人事考課の仕組みや、報酬の算定基準などについても、これまで以上に具体的で詳細な説明が望ましい」。こういった働き手へのリスペクトの示し方は、決してゆとり・さとり世代だけが求めているわけでもないはずだ。

麻野進
組織・人事戦略コンサルタント。1963年大阪府生まれ。パルトネール代表取締役。あさの社会保険労務士事務所代表。組織・人材マネジメントに関するコンサルティングに従事。人事制度構築、組織マネジメントなどを指導。出世やリストラ、管理職、中高年、労働時間マネジメントなどを主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。

イマドキ部下のトリセツ

著者 : 麻野 進
出版 : ぱる出版
価格 : 1,540円 (税込み)

ビジネス書などの書評を紹介
注目記事
ビジネス書などの書評を紹介