画家は微生物 どう描いたの?小さな世界の驚きアート

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/1/8
ナショナルジオグラフィック日本版

タラ・ローダ氏の微生物アート、題して「経度を垂れ流す緯度」(PHOTOGRAPH BY AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY AGAR ART 2019 CONTEST, “LATITUDES LEAKING LONGITUDES,” TARAH RHODA)

人と微生物との関係はずっと複雑なままだ。微生物を、病気の原因となる「病原菌」として恐れながら、その一方で発酵食品の生産に活用している。「微生物学の父」として知られるアントニ・ファン・レーウェンフック(1632~1723年)が、顕微鏡で微生物を初めて観察したのは1670年代のことだ。しかし、研究室で簡単に培養できるようになるまでには、数百年を要した。

「微生物アート」は、その微生物の培養を利用した芸術だ。研究室で広く使われる培地をキャンバスにして微生物を培養し、線や絵、最近ではオブジェまで作り出す。

米国微生物学会(ASM)は、2015年から微生物アート・コンテストを主催している。今年は「プロ」(研究者が対象)、「制作者」(研究者ではない一般の人)、「キッズ」(子供)の3部門に、合計347作品の応募があった。応募者は作製した微生物アートの写真を提出し、ASM職員がカテゴリーごとに作品を審査。さらに一般の人たちによるソーシャルメディア上での投票で決める一般投票賞も設けられた。

2019年のプロ部門で1位に輝いた鯉とハスの花を描いた作品。寒天上に9種の微生物を培養して描いている(AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY AGAR ART 2019 CONTEST, 1ST PLACE. “SEEMINGLY SIMPLE ELEGANCE,” ARWA HADID)

2019年の受賞者は、2019年11月20日に発表された。プロ部門の最優秀賞は米オークランド大学のアルワ・ハディド氏の鯉とハスの花を描いた作品で、制作者部門はコーリー・アブラム氏の微生物による自画像、キッズ部門はケイト・リン氏の世界のつながりを表す「生命の輪」、一般投票賞はSYNLABハンガリーに勤務するジータ・ペシュティーニ氏の「ハンガリーの民芸」が獲得した。

2019年のASMのコンテストで一般投票賞に輝いたジータ・ペシュティーニ氏の作品「ハンガリー民芸」。3枚の寒天培地に5種の微生物を使って描いた(AMERICAN SOCIETY FOR MICROBIOLOGY AGAR ART 2019 CONTEST, PEOPLE'S CHOICE. “HUNGARIAN FOLK ART,” ZITA PÖSTÉNYI)

培地に寒天を見つけるまでの道のり

微生物学者は当初、ジャガイモから凝固させた卵白や肉にいたるまで、さまざまな食品を用いて微生物を培養した。細菌と病気を関連づけた一連の原理で知られるロベルト・コッホ(1843~1910年)は、固体で透明、かつ殺菌できるものを使って細菌の培養法を改良したいと考えていた。当初はゼラチンが適していると思われたが、問題があった。微生物の培養によく用いられる温度である37℃で、液化してしまうからだ。

ドイツのコッホの研究室で助手兼イラストレーターを務めていたアンジェリーナ・ヘッセ(1850~1934年)は、ゼリーやプリンに使われる材料が、より良い培地になることを発見した。これが海藻から分離したゼラチン状の物質、つまり寒天だった。

仏ナント大学のロシツァ・タシュコワ氏が2014年、寒天上に作製したクリスマスツリー。ASMのフォロワー向けにソーシャルメディアに投稿した。この画像が急激に拡散し、ASM職員は、微生物アート・コンテストを始めることを決めた。ちなみに第1回コンテストが開催されたのは2015年で、84作品の応募があった(PHOTOGRAPH BY ROSITSA TASHKOVA)
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