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生物

食べておいしい、見て仰天 ハーブの電子顕微鏡写真

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/13

ナショナルジオグラフィック日本版

サフラン(Crocus sativus)の雌しべの一部(柱頭)(PHOTOGRAPH BY MARTIN OEGGERLI, NATIONAL GEOGRAPHIC)

マルティン・オエゲルリ氏はこれまで昆虫の卵や花粉、ダニ、虫の目の顕微鏡写真を撮ってきた。しかし、近年は、香辛料にレンズを向け、ローズマリーやラベンダー、セージ、バジル、サフランなど、なじみのあるハーブを撮影している。「地球外生命や異世界を見ているようだ」と話すオエゲルリ氏の写真は、植物を見る目を変える。

◇  ◇  ◇

科学者でもあるオエゲルリ氏は、「現代のレーウェンフック」と呼ぶべき存在だ。アントニ・ファン・レーウェンフックは17世紀後半のアマチュア科学者。身の周りの細部に深く興味を持ち、とりつかれたようにオランダ、デルフトの自宅であらゆる生物を観察した。レーウェンフックの興味は、ミツバチの針やノミの口、果ては自分の精子にまで及んだ。レーウェンフックの興味の対象の一つがハーブだった。黒コショウの実など、台所で使う香辛料を調べたのだ。香辛料がもつ独特の味や香りの源を知りたかったのだろう。

オエゲルリ氏は、レーウェンフックが使ったものよりはるかに高性能な顕微鏡で、同じようにハーブを観察する。同氏は、微小な世界をただ撮るだけではない。実は、電子顕微鏡はモノクロだ。オエゲルリ氏は、写真に色をつけ、強調したり目立たなくしたり調整して、白黒画像では見落とす可能性のある細部を、赤や黄色で見るものを引きつける。

ところで、 レーウェンフックは、コショウの実を水につけて柔らかくし、顕微鏡で観察した。彼はコショウの実の表面には刺激のもととなる小さなトゲがあるのではないかと想像していたが、実際に見つけたのはひだのある小さな球だった。

しかし、レーウェンフックはもっと大きな発見をしている。コショウの実の横で、小さな物体が動いていた。史上初のバクテリアの観察例と言っていいだろう。香辛料の刺激のもとを探して、彼は自分でも気づかぬうちに未知の世界への扉を開いていたのだ。

現在、黒コショウの刺激はトゲのせいではなく、ピペリンと呼ばれる化学物質が原因とわかっている。ピペリンには殺虫効果があり、自然界では、コショウの木やその実を食べる昆虫や菌類に対する殺虫剤や虫除けになる。また、人間に食べられるのを防ぐ役割もある。口の中にある熱を感知する受容体に結合して「食べるな、火傷するぞ」と警告するのだ。しかし昔の人たちは、適切な量ならば、この熱をむしろ美味しく感じるということを発見した。

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