ワイン選べる自分、近道は資格 まずフランスから挑戦
エンジョイ・ワイン(21)
ワインは好きだが、種類が多すぎて何をどう選べばよいのかわからない。ビジネスディナーでワインを飲む機会が増えたが、会話についていけない……。そんな悩みをよく聞く。どうすれば、自分でワインを選べるようになったり、会食でのワイン談義を楽しめたりする知識が身に付くのか。効果的な勉強法や役に立つ飲み方などをまとめた。
「好きなワインをもっと楽しみたいと思い、資格取得を目標に勉強を始めたら、いつの間にかラベルを見ただけでそのワインがどんな味なのか想像できるようになった」。こう話すのは会社員の手塚功一郎さん(50)だ。
10年ほど前にワインを日常的に飲み始めてすぐに資格の取得を思い立ち、世界的な資格であるWSET(ダブリュー・エス・イー・ティー)に挑戦した。2017年にWSETの上級資格である「レベル4・ディプロマ」を取得。今では、仲間内のワイン会で講師をお願いされるほどワインに詳しくなり、「以前にもましてワインを飲むことが楽しくなった」と話す。
手塚さんの例が示す通り、ワインに詳しくなる一番の近道は、ずばり、ワインの資格に挑戦することだ。資格試験は専用の教科書があり、教科書をきちんと勉強すれば、知識を基礎から体系的に学ぶことができる。ワインに関する本はちまたにあふれているが、ワインの基礎知識がない人が読んでも、情報が断片的であるため、頭に残らないことが多い。また、資格取得という目標ができることで、勉強にも身が入りやすい。
資格試験はハードルが高いというイメージもあるが、必ずしもそうではない。
一般向けのワイン資格で最も有名なのは、日本ソムリエ協会(JSA)が認定する「ワインエキスパート」だ。同協会の資格には「ソムリエ」もあるが、両者の違いは受験資格。ソムリエは、ワイン業界やレストラン業界などで働いている人でないと受験できないが、ワインエキスパートは20歳以上なら誰でも受験できる。
JSAのホームページによると、毎年約3000人が受験し、合格率は平均30%台。18年までの累計合格者数は1万5675人で、女性が3分の2を占める。教科書は分厚いが、暗記中心なので、コツコツ勉強すればけっして難しい試験ではない。ワインエキスパートの上には「ワインエキスパート・エクセレンス(旧シニアワインエキスパート)」という上級資格もある。
いきなりワインエキスパートを目指すのは勇気がいるという人には、JSAが12年から始めた「ワイン検定」がある。入門レベルの「ブロンズクラス」と、やや上級レベルの「シルバークラス」があるが、いずれもワインエキスパートに比べれば難易度ははるかに低く、合格率も高い。あらかじめ教科書を読んで、90~120分の講習を受け、その場で試験を受ける。ワイン検定で腕試しをしてからワインエキスパートに挑戦する人も目立つ。
国内での知名度は劣るが、半世紀の歴史を持ち世界的に知られているのが、ロンドンに本部を置くワイン教育機関WSETが認定するWSETだ。受験者数は世界全体で年間約9万5000人。世界に750ほどあるWSET認定校の一つで、日本で試験を実施しているキャプランワインアカデミー(本部・東京港区)の中村英司アカデミー長は「受験者の中心は30~50代で、男女比率は半々。ビジネスディナーでホストを任された時にどんなワインを選べばよいかわからないので勉強したいというビジネスパーソンも多い」と話す。
一番簡単な「レベル1」から最上級のレベル4・ディプロマまで4つのレベルがあり、レベル1は、JSAのワイン検定同様、教科書を読んでから簡単な講義を受け、その場で試験に合格すれば、取得できる。中村さんによれば、「レベル2」に合格すれば飲みたいワインを自分で選べるようになる程度の知識が身に付く。合格率は約90%という。
ワインエキスパートの試験内容が暗記中心なのに対し、WSETでは、例えばブドウが栽培されている地域の地形や気候がワインの香りや味わいにどう影響するかといった、理論や応用に重点を置いている。WSETは英語での受験も可能で、「英語とワインを同時に勉強したいという人に人気」(中村さん)という。
ワインを学ぶために、ワインスクールやワインサロンに通うことを考えている人も多いだろう。スクールには様々な講座があるが、日々の暮らしやビジネスディナーの場で役立つ体系的な知識を身に付けようと思ったら、やはりおすすめは資格取得コースだ。
理由はまず、資格試験に合格するようプログラムが組まれているので、効率的に勉強できる。また、試験を意識しながら勉強するので真剣味が増す。勉強仲間ができ、モチベーションを維持しやすいというメリットもある。かりに試験に不合格でも、かなりの知識は身に付くし、飲み仲間が増えるなどワインライフがより充実するのは間違いない。
ワインに詳しくなるには、ふだん飲むワインを選ぶ際も意識しながら選ぶことが大切だ。ワインを購入する場所も、スーパーではなくソムリエのいるワインショップが望ましい。品ぞろえが豊富な上、ソムリエと会話したりして選ぶことでワインの知識が増すからだ。
資格取得の勉強をしているのであれば、その日やその週に教科書やワインスクールで勉強した産地のワインを試すことを是非すすめる。学んだ知識を自分の鼻と舌で確認することで、記憶の定着率が高まる。
また、何から飲み始めてよいか迷う場合は、フランスワインから入るのがベスト。カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロ、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランなど世界的に有名なブドウ品種は、いずれも元はフランスワインの品種で、フランスワインを飲めば、世界の主要品種の大半が網羅できる。また、フランスワインは世界各地のワインを比較する際の事実上の基準ワインになっており、まずフランスワインの知識や味を覚えれば、各国のワインを勉強する際にも、頭の中を整理しやすい。
筆者も、シニアワインエキスパートとWSETレベル3の資格を持っているが、資格を取って一番良かったと思うことは、他の多くの資格保有者と同じように、自分が飲みたいワインを自分で選べるようになったことだ。また、ちょっと高級なレストランに行っても、緊張したり気後れしたりすることがなくなった。ワインを介した友人や知り合いも増えた。ワインに詳しくなるためには勉強は必要だが、見返りも大きい。
(ライター 猪瀬聖)
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