缶ワインにブレークの予感 高級品を手ごろに一人飲み
エンジョイ・ワイン(20)
缶入りワインがより身近になってきた。新商品の発売が相次いでいるのに加え、価格も味わいも缶入り酎ハイの代わりとなるようなカジュアルなものから、コース料理と合わせたくなるような本格派まで、タイプも多様化。個人の好みやシチュエーションに合わせた様々な楽しみ方が可能となりつつある。缶ワインはワイン消費量世界一の米国で大ブームとなっており、日本でもブレークの予感がし始めた。
高級ワインの品ぞろえが豊富でワイン愛好家に人気のワインショップ「カーヴドリラックス」(東京・港)。そのカーヴドリラックスが10月から、缶ワインの店頭販売を始めた。缶ワインはスーパーやコンビニでは見かけることも多くなったが、ワイン専門店が扱うのは珍しい。販売開始を知らせる同店のメルマガには「缶ワインはじめました~ブームじわじわきてます!」とあった。
現在、同店で扱っているのは、米オレゴン州の「アンダーウッド」、米カリフォルニア州の「ヘッド・ハイ」など3ブランド4種類で、いずれも容量250ミリリットルのアルミ缶入り。価格は1本700~800円台(税別)と、スーパーなどで売られている従来の缶ワインの約2倍だ。
同店プランニングマネージャーの別府岳則さんは「今のところはまだ、試しに買ってみようというお客様が多い」と話すが、一足先に扱い始めた店では好調な売れ行きのようだ。
アンダーウッドの輸入元であるKOBEインターナショナル(神戸市)が同ブランドの缶ワインの輸入を始めたのは5月。最初は需要が読めず輸入量を抑え気味にしたこともあって、赤、白、ロゼの3種類のうち、一時、白と赤の在庫が相次いで底をつき、ロゼも品薄状態になったという。社長の播摩朱美さんは「予想以上に売れている」と、驚きを隠さない。
人気の理由は飲みきりサイズや持ち運びに便利という缶ワイン共通の特長に加え、その品質の高さにある。オレゴン州は米国屈指の高級ワインの産地。生産者のユニオン・ワイン・カンパニーは、以前から同じブランド名の瓶入りワインを製造しており、こちらは日本では1本(750ミリリットル)3000円前後で販売。缶入りは「瓶入りと同じブドウを使い同じ醸造方法で造られている」(播摩さん)という。
赤とロゼを実際に飲んでみたが、どちらも果実の甘みと酸味のバランスの優れたエレガントな味わいで、高級オレゴンワインの趣(おもむき)がある。赤は発酵後に樽(たる)で熟成させているためボディに厚みがあり、本格的な肉料理にも合いそうだ。
へッド・ハイもアンダーウッド同様、もともと同名の瓶入りワインがあり、日本では1本3000円台で売られている。瓶入りも缶入りも、高級ワイン産地として世界的に有名なカリフォルニア州ソノマ郡で育てられた同じブドウを使い、醸造方法もほぼ一緒。缶は現在はピノ・ノワールから造る赤1種類だけだが、カリフォルニアらしいブドウの完熟感とソノマの比較的冷涼な気候に由来する軽快さが同時に表現された、洗練されたワインだ。
日本での本格的な流通は11月からのため、市場の評価はこれからだが、アンダーウッドと似たタイプだけに人気が出る可能性は十分だ。
米国産の高級缶ワインが次々と輸入される背景には、米国での爆発的な缶ワインブームがある。
米ワイン専門誌「ワイン・スペクテーター」によると、米国の缶ワイン市場は2012年には200万ドル(約2億2000万円)規模だったが、18年には6900万ドル強と、わずか6年で35倍に拡大した。18年の1年間だけ見ても、販売額は69%増。ワイン市場全体の中でのシェアはまだ1%にも満たないが、著しい成長ぶりだ。
缶ワインの生産者数も、15年には10社をやや上回る程度だったが、18年には100社を超えた。その中には価格で勝負する大手生産者もいれば、ユニオン・ワイン・カンパニーやヘッド・ハイのように品質の高さを前面に押し出す小規模な生産者もいて、市場に厚みが出ている。
米国で缶ワインが売れている理由はまず、健康にも財布にもやさしい飲みきりサイズであること。また、アルミ缶のため軽くて持ち運びに便利なこと。さらには、缶というイメージからビールやカクテル感覚で気楽に楽しめることなどが、挙げられている。こうした特長が、上の世代と比べて倹約志向や健康志向が強くワインに関心の薄いミレニアル世代にも受け、ブームの加速につながっているという。先日来日したヘッド・ハイの販売責任者クリス・マットソンさんは、「缶ワイン市場がさらに成長するのは間違いない」と話す。
日本でも、高級缶ワインが次々と発売になる一方、缶入り酎ハイのように手軽に飲めるタイプの缶ワインも増えており、缶ワインの多様化が進み始めている。
高級スーパーの成城石井は4月下旬、同社オリジナルの缶ワイン「スパークリングワイン ブラン」と「スパークリングワイン ロゼ」を発売した。いずれも290ミリリットルで、1本399円(税別)。低価格・高品質で定評のあるチリ産ワインを輸入し、国内で炭酸ガスを充てんしてからボトリングした製品で、フレッシュでフルーティーな味わい。仕事の疲れを癒やしたい時や、軽い食事と合わせて飲む時などに、最適だ。
成城石井によると、オリジナル缶ワインは同社が扱う全ワイン製品の中で常にベスト10にランクインするほどの人気。酒販課・課長の星野鉄兵さんは、「会社帰りに総菜と一緒に購入するケースが目立つほか、新幹線の改札近くの店舗の売り上げが特に好調なことから、出張の行き帰りに新幹線の中で飲む人も多いようです」と話す。
このコラムで以前紹介したオーストラリア産の「バロークス」も安定した人気で、缶ワインブーム到来の予兆も見受けられる。
缶ワインは夏場のバーベキューパーティーやピクニックなどに持って行くのに便利だが、これからの季節、友人らとのクリスマスパーティーや忘年会にもぴったり。もちろん、ふだんの家飲みワインとしても重宝する。
カーヴドリラックスの別府さんは、「缶ワインはもちろん缶から直接飲んでもおいしいが、ワイングラスにつぐと風味の変化が感じられて面白い。冷やし方によっても味わいが違ってくる。人によって好みが違うので、いろいろ試しながら自分の好みに合った飲み方を探すのも、缶ワインの楽しみ方の一つ」と提案する。
(ライター 猪瀬聖)
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