過去の成功法通用しない ハーバードが見る日本の課題ハーバードビジネススクール名誉教授 ルイス・ウェルズ氏(下)

起業家育成やリスクマネー投資は不慣れ

ところが現在、次に注力すべき産業を示してくれる国はありません。日本にとって急務なのは、起業家を育成したり、新しい産業にリスクマネーを投資したりして、成長の種をまくことですが、国も企業も苦労しているように見受けられます。なぜなら、政府主導で経済を成長させてきた日本は、こうしたことに慣れていないからです。

佐藤 日本政府は「官民ファンド」をつくって重点産業に投資をしていますが、失敗プロジェクトばかりが目立ちます。それもこれも日本政府がこうした形態の投資に慣れていないからですか。

ウェルズ アメリカ政府にも多くの失敗プロジェクトがあります。未来の不確実性が高まっている中、投資するのですから、ある程度の失敗は仕方のないことです。

アメリカでは多くのスタートアップ企業が生まれては、消えていきます。民間のベンチャーキャピタルから投資を受けていても、失敗するものは失敗するのです。大企業の新規事業の失敗率もとても高いのが現状です。

問題は、政府プロジェクトが失敗すると、重大な政治問題に発展することです。たとえばアメリカでは、2011年、太陽光パネルメーカーのソリンドラ(Solyndra)が倒産したときに、政府は厳しい批判にさらされました。この会社はオバマ政権時代、5億ドルもの融資を政府から受けていたからです。民間ファンドから融資を得た企業が倒産しても、国を挙げての大きな問題にはならないでしょう。

日本、アメリカに限らず、民主主義国家において、政府がリスクをとって投資をするのはとても難しいことです。なぜなら、失敗すれば、世間の批判をあび、政権そのものを揺るがしてしまう恐れがあるからです。

政府のあり方、いま一度模索を

佐藤 日本の官僚や政府関係者は「日本:奇跡の年月」から何を学ぶべきですか。

ウェルズ それは面白い質問ですね。もちろん、この教材からは、「国はどのような過程を経て成長するのか」「国はどのように成長戦略を立案すべきか」「いかに自国の競争優位性を生かすべきか」など、国の経済成長の本質を学ぶことができます。

しかしそれ以上に重要なのは、ここに書いてある成功法は現在には通用しない、という現実を知ることです。日本企業は政府や銀行からの低金利融資に頼って、成長してきましたが、世界の多くのスタートアップ企業がリスクマネーから資金を調達している今、この方法を続けるべきでしょうか。

現在の官庁が、昔の官庁のやり方を踏襲してもうまくいきません。経済産業省が通商産業省時代の成功モデルを踏襲しても、今の時代には合わないのです。日本の官僚や政府関係者は、経済成長における政府の役割のあり方をいま一度、模索していく必要があるでしょう。

<<(上)高度成長は奇跡か ハーバードが見る日本の経済戦略

ルイス・ウェルズ Louis T. Wells
ハーバードビジネススクール名誉教授。専門は国際経営。主に多国籍企業、国際市場における官民連携、新興国への対外投資、新興国企業による外国投資などを専門に研究。発展途上国政府、国際団体、民間企業などのコンサルタントを務める。主な著書に「Making Foreign Investment Safe: Property Rights and National Sovereignty」 (共著, Oxford University Press)。

「ハーバードが学ぶ日本企業」記事一覧

管理職・ミドル世代の転職なら――「エグゼクティブ転職」

5分でわかる「エグゼクティブ力」
いま、あなたの市場価値は?

>> 診断を受けてみる(無料)

「エグゼクティブ転職」は、日本経済新聞社グループが運営する 次世代リーダーの転職支援サイトです

NIKKEI 日経HR


今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら