2019/10/25

そして、CO2排出量取引の現在の市場価格を用いて、クジラが回収する炭素の金銭的価値の合計を出し、エコツーリズムなどを通してクジラがもたらすその他の経済効果を追加した。

すべて合わせてみると、クジラ1頭の生涯の価値は約200万ドルになると結論付けられた。全世界のクジラで計算すれば、1兆ドル(約215兆円)にのぼる可能性がある。

数頭のザトウクジラが、泡を吹きながら渦を描くようにしてオキアミの群れを囲い込む(PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

野生生物の経済的価値という考え方

現在、地球の海には約130万頭のクジラが生息している。これを、商業捕鯨が始まる前の推定400万~500万頭まで回復させられれば、クジラだけで年間約17億トンのCO2を回収できる計算になる。ブラジルの1年間のCO2排出量を上回る量だ。

だが、それも全人類の年間排出量である400億トンのなかでは数パーセントにすぎず、世界中がこれまで以上に厳しく保全努力に取り組んだとしても、商業捕鯨が始まる前の数まで回復させるには数十年がかかる。人間の手で海がひどく汚染されてしまった今となっては、それが実現可能かどうかもわからない。

「あまり誇大宣伝するつもりはありません。クジラを保護しさえすれば気候変動を食い止められるというわけでもありませんから」と語るのは、国連の環境プログラムと協力するノルウェーの財団GRIDアレンダールのブルー・カーボン・プログラムでリーダーを務めるスティーブン・ラッツ氏だ。

ラッツ氏が、この分析結果が提示する数字よりも重要とみるのは、野生生物を生かしておくことでもたらされる経済的価値に着目した点だ。この手のアプローチは他の海洋生物にも適用できるだろうと、ラッツ氏は期待する。

「海洋炭素ということであれば、クジラは氷山の一角であると考えています」

さらに、陸生動物にまでこれを拡大できないだろうか。例えば、2019年7月15日付けの科学誌「Nature Geoscience」には、コンゴ盆地のゾウが、すみかである雨林に数十億トンの炭素を隔離する手助けをしているという論文が掲載された。

この論文の筆頭著者で、フランス気候環境科学研究所の研究員ファビオ・ベルザギ氏は、IMFの分析は大型動物に関する「極めて重要な」点を浮き彫りにしていると話す。つまり、大型動物が人類にもたらす生態系サービスは、「すべての生き物に恩恵がある」ということだ。

「大型動物がサービスを提供し、そのサービスには価値があるということを認識する良いきっかけになると思います。それは、金額にして絶大な価値です」

(文 Madeleine Stone、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2019年9月27日付]