若手棋士の勝負服 白瀧呉服店、タイトル戦を陰で演出

2019/10/12
「昔のタイトル戦と現在では、和服の接し方が大きく違っている」と白瀧佐太郎 白瀧呉服店5代目店主(東京・練馬の本店)
「昔のタイトル戦と現在では、和服の接し方が大きく違っている」と白瀧佐太郎 白瀧呉服店5代目店主(東京・練馬の本店)

「絶対王者」だった羽生善治九段の後継者争いが激化している。将棋界は今年4月の名人戦から9月の王座戦まで、5棋戦連続でタイトルホルダーが交代する戦国時代に突入した。ところでプロ将棋の面白さは、盤上の鬼手妙手だけではなく、和服姿で長時間死闘する対局者の姿も見どころのひとつ。20~30代が活躍する中、カラフルで意匠に凝った和服が目立ってきている。多くのプロ棋士が愛好しているのが白瀧呉服店(東京・練馬)の誂(あつら)える羽織・袴(はかま)という。同店は将棋タイトル戦の隠れた演出監督的存在だ。




■先代店主が大の将棋ファン、本店は女流プロが対局に利用

白瀧呉服店はペリー来航の年に当たる1853年(嘉永6年)の創業で、正絹のみを取り扱う。本店は庭池や茶室を備えた約1万平方メートルという広さで、現役の女流プロが対局に利用するほどだ。ただ将棋界との縁は意外に新しく、五代目・現店主の白瀧佐太郎氏は「先代店主の白瀧五良が大の将棋ファンで、深く関わるようになった転機は2003年に渡辺明三冠(当時5段)が初めてのタイトル戦である王座戦に挑戦してから」と話す。

1853年創業の白瀧呉服店。本店は庭池や茶室を備えた約1万平方メートルという広さ

挑戦者決定戦に勝った当時19歳の渡辺青年は直後の感想戦中に、あることに気付き内心慌てた。タイトル戦用の羽織・袴を全く用意しておらず、知っている店もなかったからだ。八方手を尽くし「知人に紹介してもらって」(渡辺氏)白瀧呉服店を訪れたのは、その5日後。羽生王座(当時)との5番勝負第1局まで1カ月もなかった。五良店主は、新調の和服を急いで間に合わせたばかりでなく、対局当日の着付けの手伝いまでボランティアで全局引き受けた。この時の王座戦は、最後に羽生王座の手が震えたというエピソードが残るほどの名勝負になった。五良氏は渡辺氏の初タイトル獲得となった竜王戦でも着付けを手伝いに全国を回った。渡辺氏は白瀧呉服店を信頼して和服を作るようになったという。

渡辺明三冠(右)と広瀬章人竜王も白瀧呉服店を愛用(今年2月の棋王戦で)

当然ながら安くはない。男性の羽織・着物・袴を1セットそろえれば最低でも40万~50万円はかかる。渡辺氏は約20セットを作製し、管理も同店に委託している。佐太郎店主は「渡辺三冠の特徴は決断が早いこと。タイトル戦には2~3セット必要になるが渡辺氏はためらわない」という。本職の将棋でも、有効手が多くプロでも選択に迷う局面を、渡辺氏はすぐ2~3手に候補を絞ることができるという。その才能を自分のファッションにも生かした形だ。「渋い柄」を好む傾向があるという。

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