若手棋士の勝負服 白瀧呉服店、タイトル戦を陰で演出

2019/10/12

■棋士のクセに合わせ袖の長さなどを微調整

関西の棋士でも白瀧呉服店を利用するプロは少なくない。「王子」のニックネームを持つ斎藤慎太郎七段もそのひとりだ。佐太郎店主は、若々しさと所作の優雅さを引き立てる、鮮やかなライムグリーンの羽織や清々しい空色の着物などを段取りした。角帯や信玄袋といった小物にきれいなブルーを選んでアクセントや差し色とした。

今季王座戦の斎藤王座(左・当時)と永瀬叡王。斎藤七段は「袖を心持ち短くするなど細かく気を配ってくれる」と高く評価する

斎藤七段は「袖を心持ち短くするなど細かく気を配ってくれる」と高く評価する。持ち時間切迫の終盤で、袖が余計に触れて盤上の駒を動かさないようにする配慮をしているわけだ。白瀧呉服店では来店したプロ棋士に予備の袴をはかせ、必ず盤の前で駒を動かしてもらう。棋士それぞれのクセに合わせて微調整するためだ。袖を2~3センチ短くするなどは同店独特の「棋士仕様」という。

高見泰地七段は昨年、叡王戦の準決勝では間に合わずレンタルで済ませたものの、決勝七番勝負では和服セットを一気に3種類そろえた。「対局に集中できるように工夫されていて信頼感がある」と言う。その後も買い足していき現在6セット。新調のひとつを新茶と同じ緑色にしたのは、叡王戦の協賛社・キリンビバレッジの主力商品「生茶」を意識した高見七段のしゃれっ気だった。

「将棋以外のことにこだわりはありません」と話す永瀬拓矢・新王座(叡王と合わせ二冠)が白瀧呉服店を選ぶ理由は「勝負の時に縁起の良い模様など教えてくれる。ここぞという対局の時にゲンを担いだ和服を選んでくれるから」だという。永瀬王座のこだわりは「足袋」。将棋の思考が邪魔されないように足元に違和感がない足袋を探究した。ファッションも将棋と同じく研究・実戦第一主義なようだ。「自分はおしゃれには程遠いが、好きな服を着ていると1日のテンションが全然違う」と永瀬王座。

男性向けの(左から)2種類の角帯、羽織紐(ひも)、雪駄(せった)

夫妻同伴で和服の柄を決める棋士もいる。広瀬章人竜王だ。「最初にタイトル挑戦した8年前は『見られておかしくない』ことを優先していたが、最近は自身を前面に出すような柄をじっくり決めている」と佐太郎店主。11日から始まった竜王戦七番勝負では、女性の視線から選んだ柔らかい色合いの和服も見られるだろう。

渡辺流に倣って、白瀧呉服店に自分の和服を管理してもらっている棋士は案外多い。佐太郎店主は「地方での対局には季節や場所などを考えて直接送っている」と話す。対局場所が鹿児島県ならば大島紬(つむぎ)、新潟県ならば塩沢紬といったように地元の将棋ファンになじまれやすいよう配慮するという。さらに棋士の勝敗をデータ化して対局場のホテルで前回敗れていた場合は同じものを避けるといった具合だ。

対局者同士がともに同店の着物をまとうケースも出てきている。「羽織、袴の色はもちろん、羽織を脱いだ時の着物も重複しないように気を遣う」と佐太郎店主。藤井聡太七段がタイトル戦に登場する際に有力なのは、恐らく地元・愛知の和服だろう。しかし回数を重ねるに連れて、白瀧呉服店も利用するようになるかもしれない。

対局者同士がともに白瀧呉服店の着物をまとうケースも出てきている。「袴の色はもちろん、羽織を脱いだ時の着物も重複しないように気を遣う」(佐太郎店主)

将棋界の和服の着こなしナンバーワンは誰か。将棋界では長らく都市伝説風に「和服が一番似合うのは、大山康晴名人のようなやや小太りの体形」と言われてきた。「帯の締め位置がピシッと決まるので一理あるが、和服は袖を通す機会が多ければ多いほど、着こなしもうまくなる習性がある」と佐太郎店主。和服を着る機会を増やすには、タイトル戦に数多く出ることが一番だ。となると、現時点での着こなし最強は文句なしに羽生九段。和服の分野でも勝ち続けることが「ポスト羽生」を制することになりそうだ。

(松本治人)

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